- 2021/03/01 掲載
被災の記憶紡ぐネット寄付=伝承活動、全国の共感支え―震災10年
東日本大震災から10年。被災地では将来の防災・減災につなげるため、愛する人や暮らしを奪われた経験や記憶を伝える草の根の活動が今も続く。市民主体の伝承活動は資金確保に難しさを抱えるが、インターネットで広く小口の資金を募るクラウドファンディングを活用、全国からの共感を支えにしている。
「重油でぎらついた真っ黒な水が全てをのみ込んだ」。宮城県名取市閖上で語り部を務める丹野祐子さん(52)。2011年3月11日、津波で当時13歳で閖上中学校1年生だった長男公太さんを失った。「忘れないでほしい」との思いで伝承を始めた。
丹野さんが活動の拠点とするのは、同校生徒14人を慰霊する役割も担っている津波復興祈念資料館「閖上の記憶」。NPO法人が12年に設立したが、県の助成金が17年に打ち切りとなった。運営費を抑制して息長く活動を続けるため、借りていた施設から退去し、自前のプレハブを買う決断をした。
その際に活用したのが、クラウドファンディング。ウェブサイトに経緯をつづると、全国421人から計516万円が集まった。新たなプレハブの天井には寄付者の名前が書かれた星形の色紙がずらり。「全員に顔を合わせて、ありがとうと言いたい」と丹野さん。館長の小斎正義さん(79)は「想定以上に支援の輪が広がった」と喜ぶ。
実際に寄付した佐賀市の富田万里さん(57)は、「募金したい気持ちがある人には(寄付の)ハードルが低かった」とクラウドファンディングの手軽さが気に入った様子。実際、運営大手のレディーフォー(東京)では、東日本大震災関連だけで計10億円の寄付が集まった。
石巻市の市民団体「3.11みらいサポート」もネットで寄付を募り、新拠点を今月開所する。17年には基金を創設。企業から資金を募って、震災の伝承活動を行っている団体に助成してきた。
ただ、多くの活動にとって資金確保はいまだに課題。みらいサポート理事の藤間千尋さん(42)は、どの伝承活動も「人を雇うほどの費用を賄えず、すごく厳しい」と打ち明ける。必要なのは、まず理解者を増やすこと。藤間さんは「伝承活動の価値を地道に伝え、共感を広げていくしかない」と語った。
【時事通信社】 〔写真説明〕資料館「閖上の記憶」で語り部をする丹野祐子さん=2月24日午後、宮城県名取市 〔写真説明〕資料館「閖上の記憶」の小斎正義館長。天井にはクラウドファンディングで寄付してくれた人の名前を書いた星形の色紙が貼られている=2月23日午後、宮城県名取市
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