• 2021/04/20 掲載

焦点:GM快走、巻き返すトヨタ 中国EV戦争が本格化

ロイター

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白水徳彦

[上海 20日 ロイター] - トヨタ自動車は世界に先駆けてハイブリッド車を世に送り出し、成功を収めた。しかし、こと電気自動車(EV)、特に世界最大の中国市場ではやや遅れを取っている。

中国では米ゼネラル・モーターズ(GM)の現地合弁会社が開発した5000ドル(約55万円)を切る小型車「宏光ミニEV」が市場を席巻しているが、トヨタはこの国でこうした低価格のEVを投入できていない。

トヨタがその答えとして準備しているのがEV専用のプラットフォーム(車台)で、4月19日に上海国際自動車ショーで詳細を発表した。「e-TNGA」と呼ばれるこの車台は、小型車から大型車まで幅広い車種の骨格になるのが特徴だ。

トヨタは2025年までに、この車台を使ったEVを7車種投入する。まずは中型スポーツ多目的車(SUV)を2022年半ばまでに発売する計画で、今回の自動車ショーにコンセプトモデルを展示した。

<過去に小型EVで失敗>

トヨタ社内では自動車の電動化を進めるのは小型車が最適であると言われ続けてきたものの、最初に投入するのが中型SUVというのは、競争力があって安全、小型かつ乗り心地の良い低価格のEVの開発にはなお課題があることを示している。

トヨタのハイブリッド車「プリウス」は世界的なベストセラーとなったが、EV黎明期に発売したコンパクトカー「eQ」は失敗に終わった。2012年に約100台を売り、その後は価格の高さ、航続距離の短さ、充電時間の長さなど、EVの限界に直面して販売をやめた。eQは価格が360万円と、中型車とほぼ同じだった。

手頃な価格の小型EVを開発するのに重要なのは、車軸を駆動させる装置(パワートレイン)が、ガソリンエンジン車のパワートレインと同等の価格になることだと、トヨタの計画を知る複数の関係者は言う。

巨大なバッテリーを小さな車体に積むことも課題だという。EVの多くは床下に電池を置くためフロアが高くなり、車内に十分な空間を確保するためには車高を上げるか、車高は上げずに車内の快適性を犠牲にするかの選択を迫られると、この関係者らは話す。

トヨタは品質、快適性、性能で妥協したくないと考えており、2万ドルを大きく下回る価格にするには、製造コストを引き下げるノウハウを手に入れる必要があると認識している。

それはまさしく、GMがわずか2万8800元(4410ドル、約45万円)の「宏光ミニEV」を作るのに活用したノウハウだ。GMが上海汽車集団と合弁で作った上汽通用五菱汽車(SGMW)は、商用バンの中国最大手。飾り気のない同社のバンの販売価格は約3万元からで、そのコスト管理手法を活用して宏光ミニEVを作った。

「SGMWは、基本的にガソリン車のエンジンを電動パワートレインに置き換えただけだ」と、自動車コンサルティング会社のオートモーティブフォーサイトを経営する張豫氏は言う。宏光ミニEVとその上級車「マカロン」を合わせた今年の販売台数は、50万台を突破すると張氏は予測する。

SGMWで五菱と宝駿の両ブランドの販売・マーケティングを担当するZhou Xing副社長は、2022年初めまでに小型EV4車種を投入し、モデル数を10まで拡大する計画だと話す。

<若者の愛国心をくすぐる>

宏光ミニEVが米国や欧米では義務付けられた機能や装備の一部を省いて価格を抑えていることも、それに対抗する車を開発しなくてはならないトヨタにとっては課題となる。例えば宏光ミニEVはエアバッグを1つしか積んでいない。同乗者用のエアバッグや、横転時に命を守るサイドエアバッグはない。

急ブレーキをかけた際にタイヤがロックされるのを防ぐアンチロック・ブレーキ・システムは装備されているものの、車高が高いにも関わらず、コーナーリング時に車体を安定させる横滑り防止装置は搭載していないと、この車の開発過程を知る関係者2人は話す。

「中国の安全基準は全て満たしている。宏光ミニは都市部のある地点から別の地点まで行くための車で、基本的に通勤向けだ」と、SGMWのZhou副社長は語る。「高速で走ることは想定していない」。

だからといって、この車の人気に水を差すことはない。

昨年7月の発売以来、宏光ミニEVはコスト意識の高い消費者や、都市部に住むお洒落な若い世代の心をつかみ、3カ月で約10万台のペースで売れている。中国で最も人気の高いEVの1つとなった。

宏光ミニEVなど五菱ブランドの車が若者の間で売れるようになったのは、動画の影響もある。曲がりくねった山道を五菱ブランドのバンが巧みに走り抜けるこの映像は一気に広まり、見る者の愛国心をくすぐった。

「五菱の商用バンのような中国製の車であんなことできるなんて誇らしかった」と、広東省汕頭市で小さな会社を経営する26歳のHuang Peixianさんは言う。「宏光ミニEVを見て、私にぴったりの車だと思った。価格だけに引かれたのではなく、運転するのが本当に楽しい」。

宏光ミニEVのオーナーの多くは、塗装を変えるなどして自分なりにカスタマイズしている。アウディやBMWといった他メーカーの車に五菱のステッカーやエンブレムを貼る人もいる。

Huangさんは車内をピンク色で統一し、白いボディは日本の漫画「ちびまる子ちゃん」のキャラクターを描いて装飾してある。

<中国BYDと合弁>

トヨタが2022年半ばまでに発売を計画している中型SUVは、排ガスを出さない自動車の商品企画を手がける専門組織「トヨタZEVファクトリー」が開発する最初のEVとなる。低コストの生産ノウハウは、昨年合弁を組んだ中国のEVメーカー、BYD < 002594.SZ>の存在感が徐々に高まっていくことになりそうだ。トヨタはBYDの技術を利用し、小型EVとバッテリーなど一部の主要部品を作ろうと考えている。

トヨタの計画に詳しい関係者の1人よると、モーターとインバーター、変速機を組み合わせた「e-Axle(イーアクスル)」と呼ばれる電動パワートレインは、関連会社ブルーネクサスが開発したものを使う可能性が高いという。

宏光ミニEVは、GMと上海汽車が新エネルギー車(NEV)規制のクレジットを獲得する上でも大きな役割を果たしている。中国ではEVやハイブリッド車などNEVを生産するとクレジットを獲得し、内燃機関で動く車の販売で割り当てられたマイナスポイントを相殺することができる。

宏光ミニEVの販売が好調なGMと上海汽車は、競合他社にクレジットを売却することができ、クレジットを使ってペナルティーを受けずに利益率の高い高級車や大型車を販売することができる。

オートモーティブフォーサイトの張氏は、この制度のおかげで宏光ミニEVの販売価格は原価ぎりぎりに設定できていると指摘する。

SGMWのZhou社長は、宏光ミニEVに利益が出ているのか、NEV規制のクレジット販売でどのくらいの売り上げがあるのか明らかにしなかった。「かなり多くの会社が当社からクレジットを買うためにやって来たが、社名は明らかにできない」と、同副社長は話す。

トヨタの計画を知る2人の関係者によると、同社は利益の出ない小型車を販売することはしない。NEV規制のクレジットを利用して価格を引き下げるようなこともしないという。

トヨタの広報担当者はロイターの取材に対し、どの程度のクレジットを保有しているのか、戦略の一環としてクレジットを他社に売却する計画があるかどうかコメントを控えた。

(白水徳彦 日本語記事作成:久保信博 編集:David Clarke、田中志保)

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