- 2021/05/25 掲載
コロナ後の金融・財政:緩和の出口議論、早く始めるべき=須田・元日銀審議委員
須田氏は1998年に施行された新日銀法に向けた日銀法改正の議論に携わったほか、2001年から11年まで2期10年間、日銀の審議委員を務めた。円高が進行し、一段と強力な金融緩和が必要との意見が出る中、ETFやJ━REIT(不動産投資信託)など多様な資産買い入れを盛り込んだ2010年の「包括緩和」の決定にかかわった。
<ETF、政府認可が事態を難しく>
ETF購入開始から2020年12月で10年が経過した。須田氏は、導入時は日銀の買い入れによって経済主体の行動を変えることを狙ったが、「リスクプレミアムに大きな影響を与えられなかったし、行動を変える効果も小さかった」と振り返った。現在のETF買い入れの性質は株価に直接影響を与えようとするものであり、「市場の機能を力づくで変えようというのは絶対やってはいけないこと」と戒めた。
現在までに日銀が保有するETFは簿価ベースで36兆円規模まで膨らんだ。ETFは国債と違って償還がなく、売らない限り日銀のバランスシートに残り続けるため、株価が大幅に下落した場合に日銀の財務を悪化させるリスクがある。
黒田東彦総裁は金融緩和の出口戦略について「2%の物価安定の目標達成が目に見えてきた段階で議論する」と述べているが、須田氏は「それでは遅すぎる」と指摘。日銀が何らかの出口論を発信することで、政治家や市場参加者を巻き込む形でオープンな議論ができるようになると語った。
ETFの買い入れが、政府の認可をもとに行っている政策であることが事態を難しくしているとも述べた。どこかの時点でバランスシートから切り離さなければならないものの、「日銀が独自の判断で行うことができない」という。政策手段が限られていく中、金融政策が、日銀法で想定した通常業務を超えた「どちらかというと財政の分野に近いもの」に拡大していることの弊害に警鐘を鳴らした。
新日銀法は日銀に金融政策の「独立性」を付与したが、それには説明責任も伴う。政府の認可を受けて行う政策の拡大や、金融システムや決済システムなど、金融庁や他国と協働が必要な分野も増えてきた。須田氏は「日銀の独立性は最初に考えていたほど単純なものではなかった」としつつ、「政府と日銀が協働するにしても、分かれ道に立った時、さっと分かれられるような仕組みを入れておかなければならないのではないか」と提言した。
<波及メカニズムの評価必要>
黒田総裁は2013年、2%の物価安定目標の達成を目指して「バズーカ」といわれる金融緩和政策をとったが、目標達成の時期は見通せない。須田氏は「日銀は政策がうまくいかなかったことを外部要因のせいにしているが、波及チャネルに何か問題がなかったのか。これだけ長期間緩和政策をやってきて、なぜ主張しているメカニズムが働かなかったのかをきちんと評価してほしい」と述べた。
一方、直近、新型コロナウイルスの影響で実体経済が悪化したにもかかわらず、物価が思いのほか下がらなかった原因についても分析が必要だという。「世界的に物価が上昇する方向に移行しているのであれば、これは結構なショックになる。日銀も物価が思いのほか上がってしまった時、対応を迫られる可能性もある」と指摘した。
*インタビューは24日に行った。
(杉山健太郎、木原麗花 編集:石田仁志)
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