- 2021/06/07 掲載
情報BOX:G7が15%の法人税共通最低税率で合意した意義
共通最低税率の導入は、イエレン米財務長官が「30年にわたる法人税率引き下げ競争」と称した事態に終止符を打つのが狙いだ。
<なぜ共通最低税率が導入されるのか>
多国籍企業は現在、どこで売上高を得ているかに関係なく、税金の低い国・地域に利益を移している。主要国はこうした動きに歯止めをかけ、税収が失われるのを避ける狙いがある。
特に医薬品の特許やソフトウエア、知的財産のロイヤルティーといった無形資産からの収入は、税金の低い国・地域に移転される傾向が強まっており、企業は従来拠点を置いてきた国に高額の税金を納入しなくて済むようになっている。
<協議の舞台>
今回のG7合意は、より広範な既存の取り組みに落とし込まれる。国境をまたぐデジタルサービスへの課税や、法人税の共通最低税率など課税逃れ抑制のルールについては、経済協力開発機構(OECD)を調整役として、何年も前から140カ国の間で協議が続けられている。
OECDと20カ国・地域(G20)はデジタル課税と最低税率の両方について7月までの合意実現を目指しているが、最低税率を巡る協議はよりシンプルで異論も少ない。この問題で幅広い合意ができれば、税率の低い国が合意阻止に動くのは極めて難しくなる。
OECDは両方の措置により、世界の法人税収が500億─800億ドル増えると想定しており、最低税率導入による効果がこの大半を占める見通しだ。
<共通最低税率はどう機能するか>
この税率は、企業の海外利益に適用される。政府が国内の法人税率を好きなように決定する裁量権は残るが、企業がある国で最低水準より低い税率で納税している場合、その企業の本国政府は最低水準までの差額分を追加徴収できるため、利益を海外に移転するメリットは消滅する。
OECDは5月、各国が最低税率の基本的な制度設計に大筋合意したが、税率ではまとまらなかったと説明した。専門家によると、税率は最も議論が紛糾する争点だ。しかし、G7合意によって最低税率を15%以上とする案が勢いを得た。
このほか投資ファンドと不動産投資信託(REIT)を対象に含めるべきか、いつ新たな税率を適用して米国の税制改革との整合性を確保するかなどについて、交渉が続いている。
<次の展開>
7月にイタリアのベネチアで開くG20財務相・中央銀行総裁会議で、今回のG7合意に賛成が得られるかどうかが分かる。
どの多国籍企業に、どうやって最低税率を適用するかの基準策定を含め、具体的な詰めもなお多く残っている。
G7の共同声明では、国ごとに実施している巨大IT企業向けのデジタルサービス税の扱いについては結論を持ち越した。米国は国際的な課税ルール合意が成立し次第、これらの税を廃止することを望んでいる。
声明は、新たな国際課税ルールの適用と全ての既存のデジタルサービス税の廃止に関しては「適切なすりあわせ」が行われるべきだとしか説明していない。
最終合意に達すると、法人税率の低い国やタックスヘイブン(租税回避地)に大きな影響が及ぶ可能性がある。アイルランドは、多国籍企業からの膨大な投資とともに経済が発展した。同国政府は欧州連合(EU)が目指す域内の課税ルール統一にも抵抗しており、無抵抗で国際課税強化を受け入れる公算は乏しい。
だが、低税率国は課税強化の協議自体をつぶそうとするより、最低税率をできるだけ12.5%に近づける流れをつくるか、幾つかの例外規定を設けるといった「条件闘争」を行う可能性が大きいだろう。
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