- 2021/06/26 掲載
アングル:ベネズエラ、インフレヘッジで暗号資産に走る市民
2019年にコロンビアに移住したトロさんが送金時に使っているのは「Valiu(バリュー)」と呼ばれるアプリ。トロさんは、コロンビアペソで受け取った賃金をベネズエラの銀行の口座に現地通貨ボリバル建てで預金するのだが、ハイパーインフレに見舞われ、米国から制裁を科されてベネズエラ経済がどん底状態にある中で、普通のやり方ではこの取引はすんなりといかない。
ただ、バリューを通じてペソで仮想通貨を購入すれば、世界的な個人間の仮想通貨取引プラットフォームのローカルビットコインで、現地通貨建てのトークンに交換できる。
現在もベネズエラ移民の間で主流となっているのは、非公式の外為取引所を通じた送金だ。ところが、トロさんから見ると、そうした取引所よりもバリューの方が信頼度は高い。
トロさんは「ベネズエラで停電になったり、インターネットサービスが停止したりすれば、誰かの家族に送金するのにかかる時間に多大な影響を及ぼす。(今は)ベネズエラで停電が起きているか、あるいは携帯サービスがダウンしているかを気にする必要がない」と話す。
彼がコロンビアに移住したのは、ベネズエラで就いていた大学の守衛の仕事でもらう月給では、1日分の食料さえ満足に買えなかったためだ。
ハイパーインフレと米国の制裁に経済が打ちのめされたベネズエラにあって、伝統的な銀行システムが取り扱っていた様々なサービスを提供する新たな手段として出現したのが仮想通貨と言える。利用者や専門家の話では、送金以外にも、賃金をインフレから守ったり、通貨急落が続く中で企業がキャッシュフローを適切に管理したりするツールとして役立っている。
ブロックチェーン分析企業・チェーンアナリシスは昨年公表したリポートで、独自に算出した「世界仮想通貨採用指数」におけるベネズエラのウエートを第3位に設定した。ボリバル建て取引が高水準に上ることが主な理由だ。
ベネズエラの電力価格が非常に安い点からすると、大量の電力を消費する仮想通貨の「採掘」は追加的な収入を得る魅力的な方法であると言える。しかし、平均的な国民に採掘機器を買う余裕などない。
同国における仮想通貨の一番の利用方法は、数週間、あるいは数日で銀行預金の価値を急減させるインフレに対するヘッジだ。バリューの試験プログラム責任者、アレハンドロ・マチャド氏は「バリューは直接ペソとボリバルを交換する代わりに、ビットコインを売買する。なぜならそうした通貨は、規制された市場で手に入らないからだ」と述べた。
ローカルビットコインのデータをブロックチェーンアドバイザーのユースフル・チューリップスが分析したところ、そこで取引される中南米通貨の中では、ボリバルの取引規模が最大であることが判明している。
もっとも仮想通貨トレーダーや専門家によると、世界最大の仮想通貨取引所でさまざまなトークンの取引サービスを提供するバイナンスの人気が高まるとともに、ローカルビットコインの売買は減少しているという。
バイナンスが提供するサービスには、米ドルなど特定資産に連動して安定的な価値を維持し、多くの仮想通貨が持つボラティリティーを避けられる「ステーブルコイン」も含まれる。
バイナンスの広報担当者は、5月以降に同社の個人間取引プラットフォームでボリバル建て取引は75%増加しており、ビットコイン価格が5月初めに急落した後では、中南米通貨で唯一取引が上向いていると説明した。
米国ではピザハット、チャーチズチキンといったファストフードチェーンや一部スーパーなどがビットコイン、ダッシュなどの仮想通貨を決済手段として受け入れつつあり、ショッピングモールなどには有名な仮想通貨のロゴが並ぶ光景が見られる。
ただ、エコノミストで金融専門家のアーロン・オルモス氏によると、ベネズエラの場合、仮想通貨取引はあくまで企業がインフレに対処するためのボリバルとの交換が大半を占める。「仮想通貨はひどい経済状況を一時的にしのぐ方策として利用されているが、取引主体はほとんどが企業だ」という。
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