- 2021/07/09 掲載
アングル:中国企業の米IPOに暗雲、政府規制強化で計画撤回も
中国政府の決定にどう対応すべきか市場が考えあぐねている状況から、短期的には中国企業の米上場に向けた活動は鈍るとみる向きが多い。プライベートエクイティ(PE)企業プリマベーラ・キャピタル・グループのフレッド・フー会長は「既に米上場を計画中の中国企業はいったん動きを止めざるを得ず、場合によっては計画の完全な撤回を余儀なくされると言っても過言ではない」と話す。
フー氏は「米国市場は少なくとも当面は立ち入り禁止エリアになる。中国のハイテク企業、そして中国企業全体にとっては途方もなくリスクが高い」と指摘した。プリマベーラのポートフォリオには、海外に上場した幾つかのハイテク企業が含まれている。
これまでの10年間、米国のIPO市場は、中国の企業、特に評価額で先に上場を果たした同業者に並び潤沢な流動性を活用したいと考えるハイテク企業からすれば、実に魅力的な資金調達の場だった。
リフィニティブのデータによると、今年これまでの中国企業による米市場への上場は計34件と前年同期の14件を大きく上回り、調達総額も19億ドルから125億ドルに膨らんで過去最高を記録した。
しかし、さまざまな分野で米中間の対立が既に激しくなっている中で、中国政府が海外上場への監視を厳しくすることにより中国企業の米上場には一層不透明感が強まる、というのがアナリストの見解だ。
ブランデス・インベストメント・パートナーズの投資ディレクター、ルイス・ラウ氏は「発信されたメッセージは、海外上場で成功するには外国の規制機関の協力だけでなく、中国当局の関与が必要になるということだ。海外上場している中国企業は、単に中国に上場しないのだからという理由で、中国当局は無視できるという間違った印象を持っていたかもしれない」とロイターに語った。
中国政府の海外上場規制発表とディディへの管理強化を受け、主な米上場中国企業の米国預託証券(ADR)で構成するS&P/BNYメロン・チャイナ・セレクト指数は6日に3.4%下落した。
<明確なシグナル>
中国サイバースペース管理局(CAC)が4日、ディディによる違法な個人情報収集問題の調査を理由に国内の各アプリストアにディディのアプリ削除を命じたことは、多くの投資家と、ディディ自身にとっても不意打ちの出来事だった。
このため、ディディがニューヨーク証券取引所(NYSE)で2015年のアリババ以降、中国企業として最大のIPOを通じて上場を果たしてからまだ1週間も経過しないうちに投資家の熱狂は冷め、株価は公開価格から27%も下落している。
CACはその後、米国に上場しているトラック配車サービスの満幇集団(フル・トラック・アライアンス)と、人材マッチングアプリ運営の看准も調査対象だと発表した。
調査会社ロジウム・グループのテクノロジー・アナリスト、ジョーダン・シュナイダー氏は「中国政府がこれらの企業が西側で資金調達するとの判断を続けるのを不快に思っているという明確なシグナルだ」と指摘する。
<香港市場に追い風>
今回の中国政府の姿勢は米ウォール街の大手投資銀行にとっては大きな痛手となるが、香港市場にとってはプラスに働くことになりそうだ。
米国の大手投資銀は近年、中国企業の米上場ラッシュの恩恵を受けてきただけに、目先手数料収入の落ち込みは避けられない、と複数のバンカーはみている。
リフィニティブのデータに基づくと、中国企業の株式売り出しで投資銀行が今年これまでに得た手数料収入は4億8580万ドル。取引額ベースのトップ3はゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、JPモルガンだった。ロイターの取材に対しゴールドマンとJPモルガンはコメントの求めに応じず、モルガン・スタンレーからの回答も得られていない。
一方、香港市場は、米上場に伴う新たな規制を避けたいと考える中国企業にとって資金調達先としての魅力が高まるとみられる。
こうした期待を裏付けるように、7日には香港証券取引所(HKEX)の株価が一時6.2%上昇し、売買高も第2位に膨らんだ。UOBカイヒンのセールス・ディレクター、スティーブン・ルン氏は「HKEXが中国企業にとって唯一のIPOセンター、そして海外資金の主たる調達場所になるかもしれないとの見方が株高を後押ししている」と説明した。
(Scott Murdoch記者、Kane Wu記者、Echo Wang記者)
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