• 2021/07/09 掲載

コロナ後の金融・財政:黒田緩和は財政ファイナンスの支えに 早期の出口戦略は難しい情勢=翁氏

ロイター

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[東京 9日 ロイター] - 日銀金融研究所長などを歴任、金融政策を専門とする翁邦雄・大妻女子大学特任教授は、ロイターとのインタビューで、日銀が続けている大規模緩和は巨額に膨らんだ財政支出を支えるために継続せざるを得ない政策になっており、日銀だけで出口戦略を考えられる状況ではなくなってきた、と指摘した。また、財政や金融について市場や国民が不安にならない状況をつくることが日銀の重要な役割になっているとの見方を示した。

<2%物価目標、壊れた黒田氏のロジック>

黒田東彦日銀総裁はデフレ脱却のため2013年に異次元緩和を導入し、その後も大規模な金融緩和を続けてきた。一方、政策課題である2%の物価目標はいまだ達成されていない。このため3月には金融政策の「点検」を行い、その効果と持続性を高める対応をとった。

黒田総裁は2%の数値目標の妥当性を導入時の8年前と同じく、「物価指数の上方バイアス」、「景気落ち込み時の利下げ余地(のりしろ)確保」、「グローバルスタンダード(共通目標)」という3点で説明している、と翁氏は指摘する。

この中で理論的な柱は「のりしろ」の確保だが、2%のインフレに見合う金利では低すぎて不十分であるうえ、どれほどの「のりしろ」が必要かは国ごとに異なっている。翁氏は「2%が(各国の)共通目標である必然性はなく、黒田総裁のロジックは壊れている」とした。

一方、2%という目標にこだわる必然性はないとしても、すでに大きく膨らましてしまった異次元緩和政策を急速に転換しようとすると、超低金利に慣れてきた経済に「禁断症状」が起きかねない。日銀にとって、簡単に緩和の正常化や出口戦略を言いだせるような状況ではないと翁氏は言う。

日銀は2%の物価目標達成に向けて粘り強く緩和を続けるとし、長期戦・超長期戦に備える方向へシフトした。ただ、コロナ禍のような大きなショックが再び到来した時、日銀は金融政策のメニューをはほぼ使い果たしており、何もできないとの見方も少なくない。

翁氏は「いま使えるのは財政だけ」であり、日銀の政策にとって大事なのは「実態的に財政ファイナンスをしっかり支えること、その際、コミニュケーション戦略としてマーケットや国民に不安を感じさせないようにすることだ」と述べた。

日銀が異次元緩和に踏み込んだ当初、翁氏は出口戦略を考えるべきだと主張していたが、「ここまでくると日銀単体で出口を考えられる状況ではない」という。財政や金融について「どこかで先行きに安心感を与える説明が必要で、いずれ政府と一緒に考えなければならないだろう」と語った。

世界に目を向けると、米連邦準備理事会(FRB)など一部の中銀が金融政策の正常化を見据えて緩和縮小に動いている。一方、日銀は現状を破綻なく、なるべく長く続けようとしている。翁氏は、日銀のベクトルは出口と逆方向を向いていると指摘。「黒田総裁も在任中は『出口の議論は時期尚早』と繰り返し言い続けることになるのではないか」と予想した。

<気候変動問題で前向き姿勢を演出>

日銀は6月の決定会合で、民間金融機関による気候変動対応の投融資を支援する資金供給制度を導入することを決めた。国際的に中銀が気候変動問題に前向きに関与してきていることや、日本政府が2050年にカーボンニュートラルを実現するとの目標を掲げたことなどを受けた動きだ。

同時に、インフレ目標がなかなか達成できない中、「世間に対して中銀が何か良いことを前向きに『やってる感』を演出する、という意味合いもある」と翁氏は指摘する。

ただ、日銀がみずから民間による「グリーン化」の取り組みを選別するのは難しい。翁氏は、日銀が金融機関に投融資の判断やモニターを委ね、それをバックファイナンスの形で支援することにした、と指摘。「日銀も自分たちの金融資産の中にグリーンボンドを持つというところまで踏む込みたくはないのだろう」と分析した。

翁氏は1974年日銀入行。調査統計局企画調査課長、金融研究所長などを歴任。京大公共政策大学院教授などを務め、20年4月から現職。日銀時代は、リフレ派の論客として知られる岩田規久男氏(前日銀副総裁)と「マネーサプライ論争」を繰り広げた。

インタビューは7日に実施しました。

(杉山健太郎、木原麗花 編集:北松克朗)

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