- 2021/08/20 掲載
焦点:中国株投資に見直しの動き、規制強化で時価総額1兆ドル消失
中国ではこの数カ月間に電子商取引、個人事業主が単発の仕事を請け負う「ギグエコノミー」、受験産業、直近ではオンライン保険などの業界で次々と規制が強化され、株式市場で2月以降に1兆ドル近くの時価総額が消失した。
外国投資を呼び込むために米市場にも上場している大企業にとって、2021年はすでに世界金融危機後で最悪の年となっている。
もちろん回復の可能性はあるが、容易なことではない。アナリストの多くが混乱は収束に向かうと確信しているとはいえ、それがいつなのかを知るのは、中国共産党指導部のみだ。
ジャナス・ヘンダーソンのマルチアセット部門を率いるポール・オコナー氏は「投資家はショックを受けている。今回の動きは中国の企業利益見通し、バリュエーション、投資家心理などに大きな影響を与える」と指摘した。
だが、影響の程度はいかほどだろうか。
モルガン・スタンレーの試算によると、MSCI中国株指数は今年、世界株指数に対して記録的な出遅れとなっており、足元では1年後の利益見通しに基づくPER(株価収益率)が13.9倍と、MSCI新興市場株指数に対して5%のプレミアムが乗っている。
年初は約17倍。モルガン・スタンレーは13倍まで下がる可能性があると見ている。
今回の混乱で中国株に強気だったアナリストは、損害を見極めようとしているところだ。
一連の規制強化が発表される前の3月時点で、MSCI中国株指数構成銘柄の1年後株価目標の平均コンセンサスは、1年前と比べて40%ほど高かった。
リフィニティブのデータによると、大半のアナリストの投資判断は電子商取引大手のアリババ、インターネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)などで少なくとも「買い」、年初来で株価が90%近く下落した新東方教育科技でも「ホールド」あるいは「買い」となっている。
ジャナスのオコナー氏は「業績見通しと投資判断を引き下げる動きは、まだ始まったばかりだ」と述べた。
国内で負債が最も多い不動産開発会社の1つ、中国恒大集団は、既に時価総額がピーク時から半分以下に縮小。業績見通しに基づくPERが約13倍と、同業他社を大きく下回っている。
<先行きは明か暗か>
過去5年間に8000億ドル余りの資金をつぎ込んできた投資家が、今後数十年にわたり中国が世界の金融市場にとって、最大のけん引役になるという賭けをあきらめることはなさそうだ。
投資家は、今回の変化が長期的に経済成長をより包括的なものにするための広範な取り組みの一環であると認めつつ、将来のリターンについては、慎重なリスク評価に重きを置くよう心掛けている。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの最高投資責任者、マイケル・ボリガー氏は「ボラティリティーやノイズと、恒久的な動きを確実に見分けることが需要だ」と言う。
痛手を被ったセクターの一部は、いずれ回復する公算が大きい。だが、政府が非営利化を望んでいる学習支援サービスなどのセクターは全く見通しが立たない。「これらの企業は、DNAがほとんど入れ替わってしまった」と言う。
その痛みは大きい。EPFRのデータによると、今月最初の週だけで、主に中国株に投資する株式ファンドから約20億ドルが流出した。モーニングスターのデータでは、中国に特化したファンドのリターンは少なくとも7%のマイナス。過去5年間の平均は約13%のプラスだった。
<影響は債券にも>
株式以外の市場にも影響は波及している。
中国の債券市場は、不良債権処理会社である中国華融資産管理、中国恒大などの債務危機に動揺しており、1月に1.8だった与信スコアのZ値は先月0.7となった。通常、Z値が1.8を割ると企業倒産の危機が迫っていることを意味する。
アシュモア・グループの調査部門の副責任者、グスタボ・メデイロス氏は「政府はこうした不動産開発業者が債務不履行に陥り、大きな債務危機が起きるのを容認するだろうか」と疑問を投げかける。
SSGAのアジア太平洋地域の投資戦略・調査責任者、ミッシェル・バーロウ氏も「過去の歴史を振り返ると、スプレッド拡大は市場参入にとって魅力的なタイミングだ」と話すが、注意は怠れない。
アライアンス・バーンスタインのグローバル・マーケッツ・フォーラムで新興市場国債を担当するシャマイラ・カーン氏は「投資家は投資スタイルを利回り重視から、基礎的諸条件の分析に基づく形へと変える必要がある」と述べた。
そのことが中国の資産をより持続可能なものとし、長期的には企業収益を支えることになるかもしれない。
SEBインベストメント・マネジメントのアセットアロケーション部門グローバルヘッド、ハンス・ピーターソン氏は、今年の中国市場急落で打撃を被っているものの、市場に留まっており、政府と中央銀行が新たな景気対策を打ち出せば、中国資産を追加取得するかもしれないと述べ「中国の問題点よりも、可能性に目を向けるべきだ」と訴えた。
(Tom Arnold記者、Marc Jones記者)
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