- 2021/08/27 掲載
焦点:早期テーパリングの警戒後退、「ビハインド・ザ・カーブ」リスクも
[東京 25日 ロイター] - 夏恒例のジャクソンホール会議がオンライン形式で27日に開催されるが、米長期金利は金融政策の正常化を拒むかのように低水準に居座ったままだ。新型コロナウイルスのデルタ株感染が広がる中、金融市場では早期テーパリング(量的緩和の縮小)の思惑が後退。物価連動債(TIPS)市場では、米連邦準備理事会(FRB)のインフレ対応が遅れる「ビハインド・ザ・カーブ」になるとの警戒感も示されている。
<FRB議長がハト派発言ならドル安も>
ロイター調査によれば、エコノミスト43人中28人は、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で資産買い入れ規模の縮小予定を表明する公算が大きいと予想している。
ただ、回答者の3分の1以上はFOMCが表明を11月か12月まで待つと指摘。6月の調査では約4分の1の回答者がジャクソンホール会議での表明を見込んでいた。テーパリング開始時期については、43人中26人は来年第1四半期と想定、残りは今年第4四半期とみている。
FRBでは、テーパリング早期開始に最も積極的であった米ダラス地区連銀のカプラン総裁が20日、感染力の強い新型コロナ変異ウイルス「デルタ株」が経済に与える影響を注視しており、経済成長が大幅に鈍化するようであれば、金融政策に関する自身の見解を「多少」調整することもあり得るとした。
SMBC日興証券のチーフ為替・外債ストラテジスト、野地慎氏は「7月FOMCの議事要旨で示唆された『テーパリング年内開始』が覆るとの期待が高まってきたとは言い難いが、少なくとも前倒しの可能性が大きく低下したとの思惑が、ドル実質金利への感応度が高いナスダック総合指数や原油先物価格を押し上げた可能性は高い」とみる。
債券市場では、いずれ開始されることがほぼ明らかなテーパリングの開始時期の若干の違いは大きな材料ではないが、ジャクソンホール会議でパウエルFRB議長がテーパリングを巡ってハト派的なトーンを示せば、再びコモディティーと株式市場が活気づき、さらにドル安が進む可能性がある、と同氏はみている。
<インフレ対応が後手に回るリスク>
米物価連動債(TIPS)の5年債利回りは一時マイナス1.424%までマイナス幅を縮小した。6月のFOMCでFRBが利上げ実施時期の見通しを2024年から23年に前倒したほか、テーパリングの議論を開始したことで、FRBがインフレ制御にコミットする気合いを見せたとみられ、インフレヘッジのツールとしてのTIPSの価値が下がったのだ。
しかし、米5年物TIPSの利回りは現在マイナス1.703%と、再びマイナス幅を拡大。6月のFOMC直前の水準に戻ってしまった。「デルタ株に右往左往すれば、インフレファイターとしてのFRBへの信頼が薄れるとして、TIPSはまた買い戻されている」(外銀トレーダー)という。
市場ではFRBが後手に回り、米国のインフレが進むことに警戒感を示す声は多い。
三井住友銀行のチーフストラテジスト、宇野大介氏は、6月のFOMC後の金利の急低下で「テーパータントラム(市場の一時的な混乱)」は既に通過したと指摘。「コロナ新規株の感染拡大は今後も継続的に起きる事象であり、それを気にしていたら、テーパーの議論すらできないことになる」と話す。
米国では賃金上昇によるインフレ高進にも懸念が強まっている。アトランタ連銀のWage Growth Tracker(WGT)の3カ月平均で見ると、平均時給の伸びは3月が5.0%、4月と5月は4.8%、6月と7月は4.9%となった。
SMBC日興証券のチーフマーケットエコノミスト、丸山義正氏は「これまで賃上げの動きは新規就労者や転職者に限られていたが、既存労働者にも急速に広がってきている。特に転職者と低賃金労働者において賃金上昇の加速が目立つ」とし、FRBはリスクマネジメントの観点から、テーパリングを急ぐ必要があるとの見方を示している。
(森佳子 編集:伊賀大記)
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