• 2021/09/10 掲載

アングル:政局変化に静かな外為市場、「主役」にならない日本の政治

ロイター

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浜田寛子

[東京 10日 ロイター] - 政局を材料に日本株は大幅高となっているが、ドル/円はほとんど動いていない。コロナ禍への対応が当面の政策課題であることから、日銀の金融政策に大きな変化が予想されていないためだ。外為市場のテーマとなる「主役」は依然として米国の金融政策であり、円主導ではなくドル高による円安が進むかに注目が集まっている。

<利上げ遠い日本>

菅義偉首相の自民党総裁選不出馬が伝わった9月3日、ドル/円は直後に20銭ほどドル高に振れただけで終わった。その後も米金利上昇に連動して一時110.45円まで切り上げたが、再び大台を割り込んできており、依然として上値が重い展開が続いている。

4日間で約1700円上昇し3万円台を一気に回復した日経平均株価とは異なり静かな動きとなっているのは、各市場で注目するポイントが異なるためだ。株式市場が政治の閉塞感打破や財政出動を期待する一方、外為市場は日銀の金融政策をみている。

三菱UFJモルガンスタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト、植野大作氏は「(政局によって)日本の金融政策に大きな変更がある可能性は低い」と指摘する。

日銀の長期国債保有額の増額ペースは前年比でみて年間80兆円程度から20兆円程度まで落ちていると試算されている一方、米連邦準備理事会(FRB)は量的緩和の縮小をまだ始めていない。欧州中央銀行(ECB)は9日にパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の買い入れ規模縮小を決定したが、わずかな減額にとどまった。

「テーパリング」では日銀が一歩進んでいるとみることもできるが、米国ではFRBの見通し通りに経済が進めば利上げが見込めるが、「日本の場合、日銀の経済・物価見通し通りになっても2―3年は利上げはできそうにない」(植野氏)という。

財政支出は経常赤字拡大を通じて通貨のリスクプレミアムを高める可能性があるが、対外純資産が大きく国債の消化もほぼ国内で賄えている日本では「財政は優先順位の高い材料になりにくい」(三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏)とみられている。

アベノミクス相場が始まり、日銀の「異次元緩和」によって2012年末から13年にかけて急激な円安が進んだが、今回の政局ではさらなる金融緩和を求める声やインフレ予想が強まっていないことが円主導のドル高/円安が進みにくい背景となっている。

<パウエル議長からバイデン大統領に>

コロナ禍の金融市場をみる上では「グローバル・マクロ経済の主役が誰なのかを考えることが重要だ」と、野村証券のチーフ・エクイティ・ストラテジスト、池田雄之輔氏は指摘する。主役が変わるごとに円と株の関係も変化したという。

池田氏によると、20年春にコロナ・ショックが起きた場面ではパウエルFRB議長が市場の主役だった。大胆な金融緩和でドル安/円高が進み、日本株もリスクオンの流れに乗り上昇、円高・株高の展開となった。

今年1月5日。ジョージア州上院の2議席を獲得した民主党が大統領と上下院を制する「トリプルブルー」になると、米国積極財政への期待感が強まった。今度はバイデン米大統領が主役になり、景気回復期待で米金利が上昇。ドル高が進む中で、円安・株高の「ノーマル」な組み合わせに戻った。

一方、日本側の材料をきっかけに市場が動く局面は少なかった。「日銀のマイナス金利導入以降は緩和余地が乏しくなり、マイナス金利のさらなる深堀りも難しいという認識がマーケット関係者の間に広がっている」と、ニッセイ基礎研究所・上席エコノミスト、上野剛志氏は指摘する。

<再びパウエル議長が主役に>

足元の外為市場では「主役」が再び米国の金融政策に戻っており、テーパリングと、その後の利上げの開始時期とペースに関心が集まっている。

ただ、ドル/円の反応方向は前回とは逆だ。前回は米国の金融緩和によってドル安/円高が進んだが、今回は金融正常化がテーマ。日本の金融政策に変化がなければ日米金利差が開く可能性があり、ドル高/円安方向の材料となる。

米金利が上昇する中で、ドル/円は徐々に取引レンジが切り上がり円安基調が続くと、三菱UFJモルガンスタンレー証券の植野氏は予想している。

一方、株価には金利上昇はネガティブ材料であり、円安・株安の反応になる可能性もある。13年5月のような「テーパー・タントラム」が起きないようFRB幹部は慎重に市場とコミュニケーションをとっているが、金融相場のひとつの転換点であるだけに予断は許さない。

FRBが金融正常化に向かうのは、米国経済が回復してきたからに他ならない。その面では株安要因になるとは限らないが、マネー主導の相場が続いてきただけに、リスクオフの円買いが強まるかなど円と株の関係も注目されそうだ。

(浜田寛子 編集:伊賀大記)

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