- 2021/11/15 掲載
アングル:在庫不足の米年末商戦、自動車・小売りが広告縮小
しかし、今年は自動車メーカーもディーラーも、年末商戦向けの広告費を減らそうとしている。1年越しのサプライチェーンと生産の混乱で、自動車ディーラーの在庫は平常水準の3分の1程度に減っており、大枚をはたいて派手な広告を打っても意味がないからだ。
ゼネラル・モーターズ(GM)の高級車ブランド「キャデラック」のバイスプレジデント、ロリー・ハーベイ氏は「過去のような休暇シーズン向けの宣伝は行わない」と話す。自動車の供給が通常の3分の1に減っているのに「行うはずがない」という。
広告分析会社のEDOとパスマティクスの推計によると、GMは2019年にキャデラックのテレビ広告に1億0600万ドル、デジタル広告に1640万ドルを費やした。
自動車だけではない。世界的なサプライチェーンの混乱は、電子製品から玩具、アパレルまで多数の分野で在庫不足を引き起こしている。アドビ・デジタル経済指数によると、オンライン通販の利用者が先月目にした「在庫切れ」の表示は20億件を超え、2019年10月の3倍以上となった。
パスマティクスによると、自動車メーカーが7月末から10月末にかけて支出したデジタル広告費は約2300万ドルと、2019年の同時期を10%下回った。19年の数字はインスタグラム上の広告を除外している。
EDOの推計では、自動車メーカーが同期間に費やしたテレビ広告費は5700万ドルで、19年の同時期を5%下回っている。
EDOのケビン・クリム最高経営責任者(CEO)は「冬季の販売促進はすっかり慣習化しているため、見送るのは難しい。もっとも本格的に行うと、自動車の在庫が切れた場合に消費者の不興を買う。自動車メーカーにとっては『忘れたい12月』だ」と語った。
フォード・モーターは「F」シリーズのピックアップトラックや一部のスポーツ多目的車(SUV)について、例年と同じキャッチフレーズで年末商戦用の宣伝を始めた。レクサスも例年通り、クリスマスプレゼントとしてのイメージ作りに貢献した「思い出に残る12月」キャンペーンを行う予定だ。
レクサスのマーケティング担当米バイスプレジデント、ビナイ・シャハニ氏は「劇的に変えてしまうには、このブランドにとってあまりに重要(なキャンペーン)だ。われわれのDNAの一部だ」と説明。広告費は過去数年並みになるとの見通しを示した。
ただ、シャハニ氏は、この広告が2年前ほどの説得力を持たない可能性を認めた。
米国最大の自動車小売りチェーン、オートネーションのマーク・キャノン執行バイスプレジデントは、パンデミック前の2019年よりも広告費を減らす計画を示した。メーカーからの値引き提案は「全般に少ないだろう」という。
テレビ広告枠を売るメディア企業は、打撃を受けるかもしれない。モフェットネイサンソンのアナリスト、マイケル・ネイサンソン氏は先週のリポートで、第4・四半期に全米のテレビ広告の総収入は前年同期比1%減るとの見通しを示した。
半導体不足に苦しむ自動車メーカーが年末商戦用の広告を減らす可能性があるためだ。今年1年間のテレビ広告費は2019年比で7%減るとみている。
<維持したい注目度>
EDOの推計によると、メーシーズやノードストロームといった百貨店も7月30日から10月30日のテレビ広告支出を前年同期比で合計8%減らした。人手不足に悩むカジュアルダイニングのレストランも56%減らしている。
とは言え、データ分析会社は、今年の総広告支出の見通しを引き下げてはいない。品不足が解消した時に備え、各ブランドは顧客の関心を引きとめたいからだと広告専門家は言う。
インターネット上のディスプレイ広告のほか、フェイスブックやツイッターなどのプラットフォーム上の広告を調査しているパスマティクスのデータによると、消費財、小売り、電子製品、ゲームという主要4セクターの広告主上位25社は、過去3カ月間に広告支出を前年同期比で倍増した。
例えば、電子商取引のアマゾン・ドット・コムの支出は過去3カ月間が3億0400万ドル、前年同期が1億7600万ドル。ディスカウント小売りのターゲットは過去3カ月間が8900万ドル、前年同期は4600万ドルだった。
KPMGのマーケティングコンサルティング担当マネジングディレクター、ブレット・サンフォードチャン氏によると、広告主によっては、在庫のある商品に的を絞ったメッセージに切り替えたところもある。
一方で、消費者の眼前にブランド名を表示し続けることだけを目的に広告を出しているところもあるという。
(Joseph White記者 Sheila Dang記者 Arriana McLymore記者)
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