• 2021/12/17 掲載

アングル:自動運転技術の開発レース、先頭ゴールはトラックか

ロイター

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[オックスフォード(英イングランド) 9日 ロイター] - イーロン・マスク氏の言葉がもし真実だったら、私たちは今ごろ自動運転の「ロボタクシー」で街中を行き来しているはずだった。

しかし現実には、完全な自動運転による乗用車はスタートを切るにも苦労している。投資家の中には、ドライバー抜きのトラックの方が最初にゴールにたどり着く方に賭けようという動きも見られる。

ほんの1年前、ロボタクシーを開発するスタートアップ企業による資金調達額は、トラックやバス、物流用車両の自動運転を手がける企業に比べ、8倍も多かった。

だが、主要幹線道路や固定された配送ルート、あるいは鉱山や港湾など自転車や歩行者の姿がまれな環境で運用されるトラックの方が、ロボタクシーに比べて規制面・技術面のハードルが低いため、現在ではむしろこちらが先に利益を生むようになると見られている。

スタートアップ企業関連のデータを提供するサイト「ピッチブック」によれば、今年に入ってから12月6日までに、自動運転物流用車両への累積投資額は、2020年同時期の13億ドル(約1476億円)に対し、65億ドルへと5倍に膨れ上がっている。

一方、ピッチブックがロイター向けにまとめたデータで見ると、ロボタクシー企業への投資額は、2020年同時期の108億ドルから22%減の84億ドルだった。

実際のトレンドは、こうした数字よりもさらに顕著かもしれない。というのも、アルファベット傘下のウェイモなどロボタクシー企業の一部は、自動運転トラック事業への投資を増やしているからだ。

ロボティック・リサーチは9日、トラック事業に関する最近の合意により2億2800万ドルを調達したと発表した。同社は、自動運転によるトラック、バス、物流用車両事業を拡大するため、初めて外部の投資家にアプローチした。

新たな資金を提供した投資家の中には、ソフトバンクグループ傘下のビジョン・ファンド2、エンライトメント・キャピタルや、自動運転車に用いられるLIDARセンサーを製造するルミナー・テクノロジーズなどの名が見られる。

ロボティック・リサーチのアルベルト・ラカゼ最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、顧客にとって「今すぐ」投資対効果を生むような規模で自動運転車を展開してきたと語った。

「顧客は2025年まで待つ必要はない。あらゆるセンサーのコストを今とは桁違いに下げなければならないロボタクシーとはわけが違う」

<誇大な約束>

テスラのイーロン・マスク氏は、ほんの2年前には、ロボタクシー100万台を「来年、確実に」実現すると約束していた。しかし、どこにでも安全に行ける自動運転車が実現するのはまだ遠い先の話だ。

電気自動車(EV)関連スタートアップのルーシッド・モーターズを率いるピーター・ローリンソン氏は、先月、最先端のセンサーを使うとしても、ロボタクシーを実際の路上で運用するのは10年先になるとの考えを示した。

ピッチブックでモビリティー分野の首席アナリストを務めるアサド・フセイン氏は、今後数年での本格的な実用化という点では、短距離用の自動運転バンを製造するガティックや小型配送ロボットのニューロといったスタートアップ企業の方が、ウェイモや、そのライバルであるクルーズを上回るのではないかと話した。

混雑した街中の道路に比べて主要幹線道路の方が環境としてシンプルな分、ロボタクシーより長距離トラックの方が自動運転化は容易ではあるが、それでも自動運転トラックを開発する企業の幹部は、自社の成長ペースについて慎重な姿勢を崩さない。

「この業界で繰り返されてきた誇大な約束のことは非常に意識している」と語るのは、トラック向けの自動運転テクノロジーを開発するトゥーシンプルのチェン・ルーCEO。同社は4月に新規株式公開(IPO)を行い、評価額は85億ドルだった。

「現在ではこの業界も、問題が複雑であり、その解決にはもっと長い時間がかかることを理解している」と同CEOは述べた。

トゥーシンプルでは今のところ、安全監視役のドライバーを乗せた自動運転トラック約50台を、温暖な米国南部の複数の州で走らせている。2024年までには米国内の主要幹線道路をカバーする全国規模のネットワークを実現する計画だ。

この計画には、主要幹線道路のマッピングや南部に比べて厳しさの増す北部の州の天候や道路条件への対応、またフォルクスワーゲンの商用トラックメーカー、トレイトン傘下のナビスターが開発する新たな自動運転トラックへの本格的な投資が含まれる。

<「行く手は遠い」>

だが真に全国規模のネットワークを展開するには何年もかかるかもしれない。自動運転トラックは、「人間のドライバーを相手にする」という大きな課題を抱えているからだ。

自動車産業向けに膨大な自動運転データを処理するセンサー、電子システムを開発しているTEコネクティビティーのラルフ・クラドケ最高技術責任者は、「頭に血の上った男性ドライバー」に遭遇した場合、自動運転車は必ずブレーキを掛けることになると語る。

「自動運転車は交通の流れの中で常に最も遅い部類になるだろう」と同氏は述べた。

英国のスタートアップで自動運転ソフトウエアを開発するオクスボティカの創業者ポール・ニューマン氏は、ロボタクシーが今も「北極星」であることには変わりない、と話す。つまり、明確だが遠い先の目標である。

だが今のところ、彼はもっとシンプルなアプリケーションに力を注いでいる。その一部は、オーストラリアのスタートアップであるアプライドEVが開発した用途特化型の完全電動による自動運転車を使ったものだ。

英イングランドのオックスフォードにあるオクスボティカ本社で、実験車両を披露しつつ、「行く手は遠い」とニューマン氏は言う。「エンジニアリング分野で最も解決困難な問題の1つだ」

オクスボティカは、日立建機グループのウェンコと提携して、鉱山で使用する車両の開発に取り組むほか、エネルギー企業のBPとも、へき地にあるウィンド(風力発電)ファーム、ソーラー(太陽光発電)ファーム向けの車両など、多種多様な可能性を探っている。

BPでデジタル科学工学担当のシニアバイスプレジデントを務めるモラグ・ワトソン氏は、オクスボティカのテクノロジーを使えば、大規模な発電サイトを監視し、機器を回収して修理担当者のところまで運んでくることも可能だと指摘。同氏によれば、2022年までさまざまな選択肢をテストしてみる予定だという。

「産業レベルでの自動運転で何ができるか、私たちはまだ手探りの状態にすぎない」とワトソン氏は語った。

オクスボティカは、オンライン食品宅配テクノロジー企業の英オカドとも提携している。オカドは、米国の小売チェーン企業クローガーなどのために、サプライチェーンシステムの自動化に取り組んでいる。BPとオカドは、両社ともオクスボティカに投資している。

オカドで先進テクノロジー担当部門を率いるアレックス・ハーベイ氏は、オクスボティカのテクノロジーは「倉庫やバックヤード、道路、あるいは道路脇やキッチンでも活用できる」と話した。

<左折は回避>

米国の自動運転EVメーカー、アウトライダーが狙いを定めているのは、流通倉庫のバックヤードだ。輸送トラックから切り離されたトレーラーを引き取り、新たにけん引してもらうトレーラーを整列させる作業である。製紙企業ジョージアパシフィックがシカゴに設けている流通倉庫もその一例だ。

アウトライダーは、トラックがトレーラーの接続・切り離しを行うためのロボットアームを開発した。これまでに1億1800万ドルを調達し、アンドリュー・スミスCEOは、今後5年間で自動運転車を数千台まで拡大する計画を口にする。

スタートアップ企業であるアウトライダーは、バックヤード相互をつなぐ短距離輸送も開始したいと考えているが、スミスCEOによれば、公道での運用になると話が複雑になるという。

同CEOは「自動運転テクノロジーは最初のうち大いに喧伝(けんでん)されたが、短期的ソリューションとして最適なのは、限定された環境で、低速の作業が繰り返される流通倉庫のバックヤードでの活用だと分かった」と述べた。

公道での展開には慎重な運用が必要だ。規制の厳しさもあるが、米国のような訴訟社会では、法的な問題に巻き込まれるリスクもある。

オンライン専業の運送保険会社コフィー・ラブズのイアン・ホワイトCEOは、「ブラックスワン」級、つまり非常に低頻度だが巨大な賠償金額を伴う事故が起きれば、展開を急ぎすぎて失敗した企業は一掃されてしまうだろうと話す。「会社の存続そのものが揺らぐことになる」

ガティックのゴータム・ナランCEOは、だからこそ同社は、流通センターと小売企業を結ぶ「ミドルマイル」と呼ばれる流通経路に慎重にアプローチする道を選んだのだと話す。

ガティックが運用するトラックは、直進車両の進路を横切る左折箇所や、学校、病院、消防署、見通しの悪い曲がり角、その他面倒が起きそうな要素を避け、予測可能性の高い短いルートを走る。

「自動運転車連産業が解決しようとしている厄介な状況に片端から取り組んでいるわけではない」とナランCEOは言う。「複雑性という観点から、平穏無事なルートを使って、少しずつ前進している」

ガティックは、ウォルマート、ロブロー・カンパニーズと提携して、安全監視役のドライバーを乗せた自動運転トラックを運用しているが、アーカンソー州ではドライバーを乗せないルートもいくつか使っており、グローバル規模のドライバー不足をチャンスと捉えている。

「非常に切迫したニーズのあるシンプルな利用状況にフォーカスしようと決めた」とナランCEO。「自動運転というテクノロジー自体を目的にしているわけではない」

(Nick Carey記者、Paul Lienert記者、翻訳:エァクレーレン)

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