- 2021/12/18 掲載
焦点:裏目に出た「英国株買い」、依然割安だが資金流出過去最高
MSCI英国株指数は、2016年に行われた欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)の是非を問う国民投票の後、世界の株式指数に比べて割安となったが、今年もさらにその度合いが深まった。PERで見た世界指数に対するディスカウント率はこのところ35%と、1990年以降で最大だ。
英国がコロナ禍から部分的に持ち直したため、MSCI英国株指数は年初から13.6%上昇、今年は16年以降で最良の年になりそうだ。しかし、それでもなお現地通貨建てで米国とユーロ圏に後れを取っている。
これは予想外の展開だ。1年前に投資家は、割安な株価水準と英国内の新型コロナウイルスワクチン接種の好調な出足のおかげで、英国株が今年は海外の市場を上回る上昇ぶりを見せると見込んでいた。
しかし実際には英国株は海外市場に比して低迷。利上げ、ブレグジットの直撃を受けた国内経済で発生したサプライチェーン(供給網)危機、政治が来年不安定化する可能性などを巡り懸念が広まったためだ。
ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのファンドマネジャー、スティーブン・ペイン氏は「英国は素晴らしいスタート切ったが、それが続かなかった。英国株の一角は典型的な景気循環株で、インフレ時にも適していると考えられていたが、そうしたシナリオは崩れた」と話した。
リフィニティブ・リッパーによると、2021年の英国株ファンドからの資金流出は140億ポンド(約186億ドル)で、EUからの離脱が決まった16年の120億ポンドを上回り、過去最高を更新した。
欧州の他の国の株式ファンドからの流出は合わせて約90億ポンドで、英国は1カ国でこれを上回った。
バンク・オブ・アメリカ・グローバルリサーチの月次ファンドマネジャー調査によると、22年に向けて英国株は市場全体で最も大幅なアンダーウエイトとなっている。一方、最もオーバーウエイトが大きいのはユーロ圏株だった。
<無視された割安感>
新年が近づく中で、割安感は相変わらずだが、それも投資家を動かすほどの力になっていない。資産運用世界最大のブラックロックは英国株の投資判断を「中立」とし、欧州大陸株の方を有望視している。
アンシリアのファンドマネジャー、ジュゼッペ・セルサーレ氏は「英国株の問題は高インフレと供給難にブレグジットが拍車をかけている点だ」と指摘。「こうした動きで将来の利ざやが悪化し、イングランド銀行(BOE)は欧州中央銀行(ECB)や、ひょっとすると米連邦準備理事会(FRB)と比べても強い引き締めに動くだろう」と述べた。
投資家は22年末までのBOEの利上げ幅をベーシスポイント90ベーシスポイント(BP)近くと見込んでいる。FRBは72bpで、ECBは10bp以下の予想だ。
セルサーレ氏は、市場でBOEの利上げ観測が強まった10月に英国への資金配分を「中立」に引き下げた。
HSBCプライベートバンキング&ウェルスマネジメントも今月、バリュエーションは「非常に魅力的だ」としつつ、英国株の投資判断を「中立」に引き下げた。
HSBCのプライベートバンキング&ウェルス担当グローバル最高投資責任者、ウィレム・セルス氏は、「BOEの利上げ、国民保険料の引き上げ、配当に対する増税が重なり、回復が遅れるのではないかと市場は懸念している」と述べた。
ロンドン上場の優良銘柄は約半数を鉱業、エネルギー、金融など景気循環的な傾向を持つセクターが占めており、急成長するハイテク銘柄がほとんど見当たらない。こうしたセクター構成も英国株にとって重しになっている。
UBSアセットマネジメントのポートフォリオマネジャー、ジェレミー・レオン氏は「英国株式市場はエネルギーと鉱業の構成比率が高く、われわれはこうした銘柄には投資していない」と話した。中小のIT銘柄の方がチャンスが大きいと見ているという。
英国株はその割安感から、資金力のあるプライベート・エクイティー(PE)ファンドを先頭に買収への意欲がかつてないほど高まったが、株式市場のリターン拡大にはつながらなかった。
英政府は急成長するハイテク企業の誘致に力を入れたが失敗し、知名度の高い新規株式公開(IPO)は株価が上場時を大きく下回っている。
暗い話題が多い中、楽観的な見方もある。
ジェフリーズは、割安なバリュエーションと「配当改善の流れ」を理由に強気だ。一方ジュピターのファンドマネジャー、リチャード・ワッツ氏は英国の中型株について、可処分所得の高さと雇用市場の強さが追い風になると、やはり強気の見方を示した。
(Danilo Masoni記者、Joice Alves記者)
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