- 2021/12/19 掲載
焦点:LIBOR終焉、大晦日の「Y2K」再来に業界は戦々恐々
ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)がこの日、ついに新たな金利に切り替わる。デリバティブから各種ローン、企業の資金調達、クレジットカードに至る基準金利としての使命が終わる。
銀行関係者らは、大晦日に行われるこの切り替えを「Y2K」になぞらえている。Y2Kとは、2000年の元旦に世界中のITシステムが誤作動するかもしれないと警戒されたコンピューターの2000年問題だ。
英金融行動監視機構(FCA)のエドウィン・スクーリング・ラター市場局長はロイターに対し、「クリスマスと正月休暇はデスクに張り付いているつもりだ。念のためにそうしている人々は他にもいると承知している」と語った。
<警戒度は最高潮>
Y2Kは結局、ほとんど大きな事故を引き起こさなかった。それでも規制当局はLIBORについて油断しておらず、銀行はシステムの試験に余念がない。コンサルタント会社オリバー・ワイマンの推計では、銀行がLIBOR切り替えの準備に費やした額は100億ドル前後に上る。
LIBORは1969年にロンドンのシンジケート融資市場で産声を上げた。今から約10年前の不正操作事件をきっかけに廃止されることが決まり、米連邦準備理事会(FRB)、イングランド銀行、欧州中央銀行(ECB)などの中銀が設定する金利に切り替わる。
LIBORを基準とする取引は、今年初め時点に世界で総額265兆ドル。その中でデリバティブ取引の多くは、既に大きな混乱もなく新金利に移行したが、規制当局は、一部のローン市場で障害が発生する可能性があると警鐘を鳴らしている。
特に心配なのは、借り手が切り替え警告を見逃した場合だ。しかも1月に入ってしばらく経たないと、問題の全体像に気付かない可能性がある。
銀行からローン金利の切り替えを求める通知を受け取りながら無視している顧客は、法的な「ミステリーゾーン」に陥ってしまう恐れがある。ある債券について、十分な数の保有者から期限までに金利切り替えの合意が得られないような場合にも、問題が生じるかもしれない。
切り替えに携わる代替参照金利委員会(ARRC)のトーマス・ウィプフ委員長も、LIBOR廃止の複雑さはY2Kに似ていると話す。「事前の計画と膨大な準備を絶え間なく続ける必要があると考えている。やや大げさなほどの準備をすることになるが、それぐらいでちょうど良い」。
コンサルタント会社PwCで米LIBOR移行責任者を務めるジョン・オリバー氏は、切り替え後の来年1月に注目している。「(切り替え後の)初日に何かが起こるわけではなく、1月の支払いが非常に興味深いことになるだろう」と語った。
<レースの始まり>
LIBORは米国、欧州、日本の5通貨にわたって35の種類があり、廃止は世界的な大事業だ。うち24種は12月31日に完全消滅し、残りは既存契約に限ってしばらく継続する。
今年初めのLIBOR参照契約残高265兆ドルのうち、約8割をデリバティブとスワップが占める。残りは主に企業向け融資や住宅ローン、債券だ。
ロンドン証券取引所グループ傘下の精算機関LCHは来週、20兆ドル相当のポンドLIBORスワップ20万件の参照金利を、イングランド銀行の金利「SONIA」に転換する。今月はこれに先立ち、円とスイスフラン、ユーロのLIBORを参照金利とする相対取引のスワップ約6兆ドル相当が新金利に切り替えられた。LCHの担当者によると、切り替えに伴う混乱はなかった。
FRBが5種類のドルLIBORについて、既存契約分に限って2023年6月まで1年半継続すると発表して以来、混乱への懸念は和らいだ。英FCAもポンドおよび円のLIBOR6種について、SONIAと固定スプレッドを組み合わせた「合成」形態で1年間継続すると表明している。
こうした一連の措置により、大規模な混乱はほとんど予想されなくなった。ただ、アジアは欧米に比べて新金利への切り替えが遅れている。
バークレイズ銀行のアジア太平洋債券オリジネーション責任者、アビナシュ・タクール氏は「アジア企業は(欧米に比べて)それほど切迫した問題だと感じておらず、さほど心配していなかった」が、ここ2、3カ月で集中的に取り組むようになったと説明した。
焦点は既に、2023年6月のドルLIBOR完全廃止に向けた準備に移っているとの声もある。銀行は米議会に対し、既存のLIBOR契約を自動的に新金利に切り替えさせる法律の制定を強く働きかけている。23年半ばに法的位置付けが不明になる契約が出てくるのを避けるためだ。
KKRクレジットのLIBOR移行責任者、タル・リバック氏は「法律だけに頼るべきではない。1月1日が来ればレースは始まる」と語った。
(Huw Jones記者 John McCrank記者)
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