• 2022/03/03 掲載

アングル:「ロシア排除」しない暗号資産取引所、抜け道化に懸念

ロイター

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[ロンドン 2日 ロイター] - 世界最大手の暗号資産取引所の中には、ロシアでの事業を継続しているところがある。金融業界のメインストリームとは一線を画す対応で、専門家は、ウクライナに侵攻したロシア政府の孤立化を目指す西側の動きを弱める判断だとしている。

西側諸国による制裁は、ロシア経済を圧迫してグローバル金融システムから切り離す狙いがあり、西側諸国の企業や金融機関はロシアでの事業を停止せざるをえなくなっている。

だが、バイナンスや米国を拠点とするクラーケン、コインベースをはじめ、世界最大手の暗号資産取引所の多くは、ウクライナ政府の要請にもかかわらず、ロシア系ユーザーの包括的な締め出しには踏み切っていない。各取引所は、ユーザーを精査し、制裁対象となるユーザーはすべてブロックするとしている。

暗号通貨取引所のこうした冷淡さは、伝統的な金融セクターと暗号資産の世界の間に横たわる思想的な隔たりを如実に示している。暗号資産の根底には、リバタリアン(自由至上主義者)的理想、そして国家政府に対する不信感があるからだ。

暗号資産取引所は、1つの国全体を排除することは、政府に監視されない決済手段へのアクセスを提供するというビットコインの精神に反すると主張している。

だが、一部のマネーロンダリング(資金洗浄)対策(AML)専門家は、暗号資産取引所によって、ロシア人や業が資金を海外に移転させるルートが開いたままとなり、ロシアに圧力をかけて戦争を終わらせようとする西側諸国の努力を台無しにする恐れがあると警告する。

銀行監督機関での経験もある米国の弁護士ロス・デルストン氏は、「制裁効果の低下は明らかだ」と語り、「(暗号資産は)資産の逃げ道になっている」と説明する。

大半の取引所は身分証明書類の提示を求めているが、本人確認ルールの厳格さは取引所によって異なり、暗号資産が不正資金の移動手段になっていると考える規制当局者を当惑させている。

マネーロンダリング対策や暗号資産の専門家は、制裁対象となっている人物が、ビットコインと比べてユーザーの匿名性が高い、いわゆる「プライバシーコイン」と呼ばれる暗号資産を介して資金を移動させようと試みるのではないか、と語る。「プライバシーコイン」の支持者は、各国政府による過剰な監視に対するユーザー保護を高めるものだと主張する。

<ルーブルからの逃避>

1ドル110ルーブルという過去最低水準に達した2日、ロシアの市民や企業ルーブルは、手持ちのルーブルを外貨に換えようと奔走していた。

人々が預金を急いで暗号資産に切り替えようとしていることを示唆する兆候もある。調査会社クリプトコンペアによれば、ルーブルと暗号通貨間の取引量は2月28日、1週間前の3倍に当たる153億ルーブル(約164億円)に達した。

この急増ぶりに規制当局は憂慮を深めている。ある欧州連合当局者は2日、欧州委員会では暗号通貨が制裁逃れの手段として使われていないか調べている、と話した。

この記事のために米国財務省と英国の金融規制当局にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

暗号資産取引所のスタンスは、既存の決済サービス企業やフィンテック企業がロシアにおけるサービス提供を制限して制裁措置に応じた流れに逆行している。

たとえば、決済サービスのワイズや送金代行のレミットリーはロシアでの送金サービスを停止し、アップルも「アップルペイ」の利用を制限している。

米国のクレジットカード最大手であるビザとマスターカードも、複数のロシア系金融企業をネットワークから排除した。

<「リバタリアン的価値観」>

ウクライナのフェドロフ副首相は27日、暗号資産取引所各社に対し、ロシアのユーザーが持つデジタルウォレット・アドレスを停止するよう要請した。この措置が取られれば、ユーザーは実質的に暗号通貨を取引する能力を失ってしまう。

クラーケンのジェシー・パウエル最高経営責任者(CEO)は、「(ビットコインは)リバタリアン的価値観を体現するものだ」として、この要請に応じないと述べた。

クラーケンの広報担当者は、ある国全体のユーザーを締め出しても「必ずしも本当の責任者を罰することにはならず、彼らはすでに包括的な制裁の可能性に備えている可能性もある」と語った。

またクラーケン関係者は、同社は事業を行っているすべての法域において法律上・規制上の要件を遵守していると説明している。

世界最大の暗号資産取引所であるバイナンスも、ロシアのユーザーすべてを締め出すことを拒否したが、制裁対象となっているクライアントのアカウントを停止していると述べている。バイナンスは28日、「暗号資産は、金融におけるより大きな自由を全世界の人々に提供することを意図している」

クリプトコンペアによれば、ルーブル建ての暗号資産取引のうち40%以上がバイナンスで行われているという。バイナンスの広報担当者はこの数値についてコメントを控えており、またアカウントを停止したとする制裁対象ユーザーの詳細については明らかにしていない。

米国の暗号資産取引所コインベース・グローバルも、ロシア人が絡む取引に対する包括的な禁止措置を課す予定はないと述べつつ、制裁対象となっている人物のアカウントは停止するとしている。

だが、公認AMLスペシャリスト協会の暗号資産・不正金融専門家であるジョビー・カーペンター氏は、「ロシアでの事業を続ければ取引所自体にもリスクが及ぶ可能性が高い」と警告する。

「暗号資産取引所、そして暗号資産の最終的な『出口』となる銀行は、制裁破りを防ぐための取組みや対テロ法案に注意を払う必要がある」とカーペンター氏は述べた。

(Tom Wilson記者、翻訳:エァクレーレン)

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