- 2022/03/09 掲載
焦点:中南米市場、ウクライナ侵攻で資金流入続く 選挙リスクも
一方で付随するリスクは各国固有の問題で、選挙ないし物価高騰にほぼ集約される、というのがアナリストの見方だ。
ドルベースで比較した場合、MSCI中南米株指数は年初来で11%上昇し、先進国株指数の約13%下落をアウトパフォームしている。株式・債券に対する年初から2月末までの外国人買越額も約180億ドルと、新興国全体の75億ドルよりずっと多い。
ロシアのウクライナ侵攻は中東欧の新興国市場にリスク回避ムードをもたらしたものの、中南米市場に関しては堅調地合いがむしろ強まるだろう。
JPモルガン・チェース・ラテンアメリカ・アンド・カナダのアルフォンソ・エイザギーレ氏は「現在あらゆる市場が急変動する中で、中南米には収益機会があるかもしれない。一部市場にはコモディティー高や、新興国資産運用担当者の投資拡大が好影響を及ぼすのではないか」と述べた。
エイザギーレ氏によると、ロシア、ウクライナと周辺地域への投資が制限されているため、新興国市場のポートフォリオにおいて中南米の比重が高まってもおかしくないという。
今年は中南米通貨の値動きも改善している。年初来の対ドル相場を見ると、新興国通貨のうちパフォーマンス上位4通貨をブラジルレアル、コロンビアペソ、ペルーソル、チリペソが占めている。原油や食料の価格高騰だけでなく、通貨高も中南米市場の追い風になっていると言えそうだ。
キャピタル・エコノミクスのチーフ新興国市場エコノミスト、ウィリアム・ジャクソン氏は、コモディティー価格の動きが中南米に一番大きな影響を与え、ブラジルレアルやコロンビアペソといった通貨を支えていると分析。特にコロンビアのような石油輸出国がよりはっきりとした恩恵を受けているとの見方を示した。
中南米では、米連邦準備理事会(FRB)がタカ派姿勢に転じるよりも早く利上げが始まり、地域の債券の相対評価を高めてきた。今年の新興国ソブリン債と準ソブリン債のスプレッドは全般的に開いているが、中南米は72ベーシスポイント(bp)で、アジアの92bpやアフリカの161bp、欧州の778bpほど大幅ではない。
BKアセット・マネジメントのマネジングディレクター、ボリス・シュロスバーグ氏は「あなたが長期的ファンダメンタルズ強気派なら恐らく(投資先は)チリになるはずだ。短期的な戻り狙いであれば、ブラジルが当てはまる。コモディティー高に基づく長期投資ならアルゼンチンだ。今のところ誰もが敬遠し、基本的に売られすぎている。現時点で下値方向のリスクは乏しい」と指摘した。
シュロスバーグ氏は、既にレアル建てで7%、ドル建てで20%近く上昇しているブラジル株については、上振れ方向の材料に最も敏感に反応するだろうとみている。
ただし中南米市場のアウトパフォーマンスに水を差しかねないのが、政治的な不透明感と全般的なリスク回避姿勢だ。
コロンビアでは週末に議会選挙が予定され、その結果で5月の大統領選の行方がより明白に見えてくるだろうが、今のところ情勢は左派勢力に有利な方向に急速に傾きつつある。ブラジルでは10月に大統領選が実施され、チリは新憲法の批准を控えている。
モルガン・スタンレーのアナリストチームは7日付ノートで、中南米にはブラジルとコロンビアの選挙、ペルーの国内政治の緊張、チリの憲法改正手続きといった固有のリスクイベントがあることから、資金を振り向けるのが引き続き構造的に難しい面があると説明。メキシコも、タカ派姿勢を強めるFRBと物価上昇圧力の高まりが通貨ペソと国内金利商品にマイナスの影響を及ぼしそうだと警告した。
(Anisha Sircar記者、Rodrigo Campos記者)
PR
PR
PR