- 2022/06/28 掲載
アングル:デフォルトのロシア国債、債権者は法的「迷路」に
これらの国債は、ただでさえ異例の環境下にある。発行体のロシアが仕掛けた戦争は終息の兆しが見えず、同国は国際金融制度から切り離されている。
残高400億ドル近くに上るロシア外貨建て国債の一部を保有している投資家が、今後直面し得るシナリオを以下にまとめた。
<アクセラレーション>
債務者が債券の契約を破った場合、債権者は「アクセラレーション」と呼ばれる一括返済を要求できるが、その発動には規則がある。
2026年および36年償還のロシア国債の条件を見ると、発行残高の最低25%を保有するグループが「デフォルト」事由とアクセラレーションを宣言する必要がある。この宣言により、債券保有者は償還期日にかかわらず全残高の返済を要求できる。
ただし、未償還債券の元本総額の「最低50%」を保有する債権者が反対票を投じれば、これを覆すことが可能。同様に、デフォルト事由宣言も撤回できる。
今回問題となった2つの債券について、外国人投資家と国内投資家それぞれの保有比率は明らかになっていない。ロシア国債全般についても同様だ。
<訴訟>
国債のデフォルトを巡ってロシアを提訴しようとしても、一筋縄では行かないだろう。債券の条件が異例で、あいまいな場合があるからだ。特にロシアが、2014年のクリミア半島併合と18年の英国でのスパイ毒殺未遂を受けて糾弾された後に発行された国債はやっかいだ。
例えば債券は英国法の適用を受けるが、多くの債券は、どの管轄区域で係争を処理すべきかが明記されていない。
このため、米バージニア大学のミトゥ・グラティ法学教授によると、「ロシアはモスクワの裁判所に持ち込むが、債権者はロンドンかニューヨークで提訴しようとする」といった事態も考え得る。
オックスフォード・エコノミクスの首席エコノミスト、タチアナ・オーロバ氏は、投資家には選択肢を探るための時間的余裕がたっぷりあると言う。
「債券の書類では、返済請求件が失効するのは返済期日から3年後と定められているため、一部の債券保有者はロシア政府への請求申し立てを遅らせる可能性がある」と述べた。
法律事務所クイン・エマニュエルのソブリン訴訟責任者、デニス・フラニツキー氏は、一部の債券保有者は「一番乗りで裁判所に」行きたがっている様子だが、大半の債券保有者は熟慮するだろう、との見通しを示した。
アルゼンチンを含む多くのソブリン債再編で債権者に助言してきたフラニツキー氏は、「すべてはスローモーションで進むだろう。敵意が収束するまで何ひとつ決着しないだろう」と予想した。
<仲裁>
ロシアとの二国間投資協定が存在する法的管轄区域の投資家は、ロシアから金銭的損害その他の補償を得るために仲裁制度を試すかもしれない。
ロシアは欧州連合(EU)諸国の大半、英国、カナダを含む数十カ国との間でこうした二国間協定を結んでいる。
<様子見>
外国の債権者が採り得る選択肢のひとつは、少なくとも当面事態を静観することだ。
2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以来、制裁や顧客からのプレッシャーによって、既に多くのファンドが資金をロシアから他地域に移し替えている。未だにロシア債券を抱えているファンドは評価減の計上を余儀なくされた。いずれにせよ、損害は既に発生済みと言える。
多くの資産運用会社は、単純に当面は債券を保有し続けるかもしれない。
ロシア債を保有するGMOのパートナー、カール・ロス氏は「ロシア債はベンチマーク(運用の指標)におけるウエートがゼロで、価格は低落している。ロシア債の流通市場に対する制裁により、価格がさらに下がるのは明白だ」と指摘。「プーチン氏が権力の座にいる限り、相場の回復は期待できないだろう。ただ、いつかの時点では債権が効力を持つはずだ」と述べた。
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