• 2022/08/15 掲載

焦点:株高トレンドの定着は不透明、「粘着質」な米インフレに警戒

ロイター

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伊賀大記

[東京 15日 ロイター] - 株価の戻り歩調は一段と勢いづいているが、本格的な上昇トレンドに入るかは不透明との見方も多い。原動力となっているインフレのピークアウトがまだはっきりしないためだ。米国の物価高は粘着度が高まっており、容易には下がりにくくなっている。米連邦準備理事会(FRB)の過度な金融引き締めによる景気後退懸念は払拭されていない。

<米CPIの粘着と弾力>

米アトランタ連銀が毎月発表している粘着価格(Sticky-price)CPIは、帰属家賃や外食料金、医療関係など、いったん上昇し始めるとなかなか下がらない品目を集めた物価指標だ。7月は前年同月比で5.8%上昇と1991年12月以来の高さとなり、伸び率が一段と高まる傾向が続いている。

一方、同じくアトランタ連銀が公表する弾力価格(Flexible-price)CPIはガソリン価格や新車価格、生鮮食品など振れやすい品目を集めた物価指標だ。7月は前年同月比16.3%上昇と3月の20.0%をピークに伸び率は鈍化傾向にある。

米国では消費者物価指数(CPI)に続き、米卸売物価指数(PPI)も7月は市場予想を下回り、株高要因となった。しかし、粘着価格CPIと弾力価格CPIの乖離縮小が示すように、振れやすい品目が下がっただけで、粘着質な品目はむしろ上昇しており、物価が高止まりする可能性を示唆している。

弾力価格CPIが下がり始めれば、いずれ粘着価格CPIも下がる傾向はある。ただ、1974年と1980年のケースでは、弾力価格CPIがピークを打ってから、粘着価格CPIがピークを打つまでに、それぞれ1年と3カ月かかっている。

今回、弾力価格CPIがピークを打ったのは今年3月。1980年のケースであれば、6月にピークを迎えるはずだが、足元では7月時点でも伸びは加速。1974年のパターンをたどるなら、来年3月まで上昇率は高まり続けることになる。

<「インフレを甘く見るな」>

「賃金上昇など構造的なインフレ要因は継続している。粘りのあるインフレが景気後退期に突入しても続いていれば、FRBは粘り強く利上げを続けざるを得ず、スタグフレーションのおそれが強まる」と、マネックス証券のチーフ・アナリスト、大槻奈那氏は話す。

S&P500は1月高値から6月安値までの半値戻しを達成。日経平均は6月9日に付けた戻り高値2万8389円75銭を更新した。インフレピークアウト期待が株高の原動力だが「ベアマーケットラリーに過ぎない」(外資系投信)との見方も少なくない。

リセッション(景気後退)を示唆するとされる米国債の逆イールドカーブ状態は依然解消されていない。今年7月に利回りが逆転した米2年債と10年債の乖離幅は、足元でやや縮小しているが、依然としてここ10年で最も開いている水準にある。

景気後退が需要減をもたらし、インフレ率が低下するとは限らない。いわゆるスタグフレーションの要因は原材料価格の上昇だ。ウクライナや台湾を巡る国際情勢は依然不安定であるほか、欧州の水不足も深刻。水量が大きく低下したライン川などでは石炭などの輸送に支障が出ている。

「平穏な、いわゆるゴルディロックス的な景気後退を期待し、株高になっているが、インフレを甘く見てはいけない。ロシアを巡る情勢は依然読み切れない」とフィデリティ・インスティテュートのマクロストラテジスト、重見吉徳氏は指摘している。

<ジャクソンホールは肩透かしか>

供給制約も解消のめどが立ったわけではない。ニューヨーク連銀が4日発表した7月のGSCPI(供給制約指数)は1.84と、前月の2.31から低下したが、その要因は中国のロックダウン(都市封鎖)解除が大きいとみられている。

同国では11日、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、複数の都市で新たな行動制限やロックダウン措置が導入された。ゼロコロナ政策による経済抑制は供給制約要因として経済の重しとなり続けるおそれがある。

米CPIは伸びが鈍化したといっても前年同期比で8.5%。政策金利(2.25─2.50%)との乖離は依然大きい。「株高が進んでしまえば、資産効果が発生し需要減によるインフレ抑制効果が薄れる。FRBが金融引き締めを続ける要因になる」(三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏)という。

今年は8月25─27日にジャクソンホール会議が開かれる。3年ぶりに対面で開催される見通しだ。市場はパウエルFRB議長が9月以降の金融政策について、どのような認識を示すのか注目しているが、明確な示唆は与えないとの見方も出ている。

「インフレがピークアウトしたかはまだわからない。少なくとも9月の物価指標を見るまでパウエル議長は判断を下さないだろう。データ次第の相場展開はまだ続きそうだ」と、グローバルマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は話している。

(伊賀大記 グラフ作成:田中志保 編集:橋本浩)

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