- 2022/09/15 掲載
アングル:イーサが環境配慮型システムへ移行、ビットコインに重圧
「Merge(マージ)」と称されるイーサリアムのシステム移行は、米国で仮想通貨のマイニング(採掘)に伴う電力の大量消費が議論の的になり、化石燃料を使うマイニングが温室効果ガス排出量削減を巡る世界的な取り組みを阻害していると環境団体が批判する中で浮上してきたアイデアだ。
英インペリアル・カレッジ・ビジネススクールの気候金融・投資センターで研究員を務めるカーミン・ルッソ氏は「自動車は(環境負荷を減らす取り組みとして)ディーゼル燃料から電気に移行しつつある。それなら仮想通貨もなぜ同じことができないのか」と問いかける。ルッソ氏は最近、仮想通貨と気候変動に関するリポートも執筆した。
イーサリアムは、マイニングに膨大な電力を必要とする「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」からPoSにシステムを切り替える。イーサリアムを運営する非営利団体イーサリアム財団の試算に基づくと、これで消費電力を99%以上カットできるという。
同財団が見積もる現在のイーサリアムの消費電力は6ギガワット近くと、米国の100万世帯余りが使う電力にほぼ匹敵する。PoWの下では、報酬である新たな仮想通貨を得るにはマイニングを通じたデータ証明競争を勝ち抜くために大量の電力を消費する巨大コンピューターが必要になるからだ。一方PoSは、こうした大がかりなハードウエアなしに手持ちの一定量の仮想通貨を掛け金(ステーク)とすることで、報酬を獲得できる仕組みになっている。
ルッソ氏によると、イーサとビットコインを除くほとんどの仮想通貨は現時点でPoW以外のシステムを採用している。
イーサリアムの生みの親であるビタリック・ブテリン氏はツイッターで、2020年から準備され続けてきたマージは今月13─15日に実行されると明かした。
<最大の異端者>
大半のブロックチェーン取引に膨大なエネルギーが使われることを巡っては、投資家や環境運動家らが批判を強め、政策担当者も無視できなくなりつつある。
実際ニューヨーク州は、化石燃料を集中的に利用する一部の仮想通貨のマイニングについて部分的に禁止した。複数の米上院議員は、仮想通貨関連企業に事業活動が気候変動に及ぼす影響を開示するよう要求している。
自然保護団体シエラクラブの元エグゼクティブディレクター、マイク・ブルーン氏は「過去数年間で、ビットコインとイーサリアムのエネルギー消費問題が気候変動の観点で仮想通貨業界の大部分に暗雲を投げかけてきた」と指摘。その上で「イーサリアムがたった1日でエネルギー消費を最大99%も減らせるなら、それはとても重要な意味があるし、ビットコインを業界の最大の異端者として浮かび上がらせる」と語り、イーサリアムの動きは他の仮想通貨も追随できることを証明していると付け加えた。
ブルーン氏は、グリーンピースなどが結成した、ビットコインに同様の省エネ型システムへの移行を求める環境団体連合に参加している。
ケンブリッジ大学が試算するビットコイン・ネットワークの年間電力使用量は約100テラワット時と、マレーシアないしスウェーデンの国全体の使用量にほぼ等しい。
ただビットコインを擁護する人々は、エネルギー消費という面で仮想通貨業界だけが不当にやり玉に挙げられていると主張する。ホワイトハウスが最近公表した報告書によると、米国全体の電力消費に占める仮想通貨業界の比率は0.09─1.7%だった。
また幾つかの業界団体は、マイニングで使用される電力の半分以上は再生可能エネルギーに由来していることが分かるデータを明らかにするとともに、仮想通貨業界は再生可能エネルギーの電力網拡大や新しいグリーン電力開発計画向けの資金提供に貢献する可能性を秘めていると訴えた。
ビットコイン推進派のシンクタンク、ビットコイン・ポリシー・インスティテュートの研究員マルゴ・パエス氏は、イーサリアムのシステム移行でビットコインにも右にならえと促す声が強まる公算が大きいと認める。
それでもパエス氏は、PoWはシステムを安全かつ民主的に保つ方法だと強調。「システム移行を求める人々はPoWとビットコインが社会にもたらすメリットを理解していない」と述べ、今の仕組みは1人の金持ちが既存の仮想通貨の大部分を買い占めるだけでネットワークを乗っ取るのを難しくしていると説明した。
同氏は「PoWからPoSへの移行を選ぶことは、不当な権力の行使につながらないようなネットワーク環境を確保できるという面ではそれほど重要ではない」と話した。
(Avi Asher ?Schapiro記者)
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