• 2007/06/29 掲載

ボーン・グローバル:フィンランドからグローバル・ベンチャー企業をつくる人々のビジネス+IT戦略(1)

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IT先進国、フィンランド。この連載では、その国際競争力を支える「ボーン・グローバル企業」について考える。ボーン・グローバル企業とは何か、なぜフィンランドから多くのボーン・グローバル企業が生まれるのか。日本におけるボーン・グローバル企業育成についても考察する。

矢田龍生

矢田龍生

1976年東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。フィンランド、ヘルシンキ経済大学にて経営学修士(MBA)を取得。ヘルシンキ経済大学在学中に、アメリカ、ワシントン州立大学に交換留学。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社後、ビジネスプロデュースを行うヴォヴィスに設立メンバーとして参加。
 大学在学中からインターネットビジネスに携わり、数多くのインターネット、IT関連のビジネスに対してのコンサルティング活動に従事。戦略、オペレーション、デザイン、システムなどの幅広い知識を持ち、日本だけでなくフィンランドをはじめ欧州、そして、米国のIT業界にネットワークを持つ。
 共著書に、格差なき社会とIT産業が支える強い国際競争力を同時に実現したフィンランドの社会・産業構造を解説した、「ザ・フィンランド・システム」がある。

【マネジメント】ボーン・グローバル:フィンランドからグローバル・ベンチャー企業をつくる人々のビジネス+IT戦略
エスポー市にあるノキアの本社「ノキアハウス」
 「フィンランド」=「IT先進国」というのは、もう日本では定着したイメージだろう。世界最大の携帯電話端末メーカーであるノキア社の本社は、フィンランドの首都、ヘルシンキから車で15分程度の衛星都市エスポー市にある。その町からノキアは、全世界の携帯電話市場の3割以上を支配しているのである。

 また、「フィンランド」=「強い国際競争力」というイメージも定着してきた。世界経済フォーラムの発表する世界競争力ランキングの最新ランキング(2006年度)では、スイスに次いで2位の座を占めている。2001年、2003年、2004年にはこのランキングの1位を占め、2002年、2005年は2位だったことを考えると、まさに国際競争力ランキング上位の常連といってもおかしくないだろう。

 そのほかにもフィンランドは、汚職の少なさ、教育分野、環境維持分野など、さまざまなランキングで上位を占める、モデル国家ともいえる*1

 このように、フィンランドの強さはノキアの成功だけにとどまるものではない。この国の強さは、Born Globals(ボーン・グローバル企業)とよばれる企業が数多く生まれている点にも現れている。ボーン・グローバル企業とは、設立と同時にグローバル市場でのシェア獲得を目指す企業であり、フィンランドでは、新しいボーン・グローバル企業が数多く生まれる生態系が確立している。

 伝統的な企業とは異なり、設立時から急速に国際化を進めるボーン・グローバル企業は、新しい起業モデルとして、世界的に注目を集めている。

【マネジメント】ボーン・グローバル:フィンランドからグローバル・ベンチャー企業をつくる人々のビジネス+IT戦略
ヘルシンキ市内の自然「ラスティラの森」
 その一方で、ヘルシンキを訪れると、どこか牧歌的な印象をうける人も多いだろう。ダウンタウンに超高層ビルが立ち並び、ビジネススーツに身を固めた人々が忙しく行きかうということはない。むしろ、コンパクトな街にトラムが走り、地下鉄で20分も行けば、森の中に位置する静かな住宅街に行くことができる。その住宅街の近所には緑が溢れ、夏場はベリー摘み、冬場はクロスカントリー・スキーが楽しめる。

 つまりフィンランドは、国際競争力ランキング上位というビジネス的なイメージだけでなく、ムーミン、サウナ、サンタクロースに代表されるようなやさしいイメージをもつのもまた事実だ。そして、やさしいイメージと強いビジネス競争力を併せもつことから、フィンランドは謎の多い国として考える人も多いようだ。

 今回の連載では、そんな謎の多いフィンランドについて、
■フィンランドの国際競争力を支えるボーン・グローバル企業とは何か?
■フィンランドに存在する、ボーン・グローバル企業を産む生態系とはどのようなものか?
■フィンランドで現在注目されている、最新のボーン・グローバル企業の紹介とその企業で働く人々の声
をお伝えしたいと思う。

 また、連載の最後では、日本におけるボーン・グローバル企業育成についても考えてみたいと思う。

ボーン・グローバル
グローバル起業という衝撃

 フィンランドが強い国際競争力を勝ち得た基礎には、やはりノキアが世界最大の携帯端末メーカーになったことがある。しかし、継続して競争力ランキングで上位に位置し続けている理由の一つは、ボーン・グローバル企業という、設立と共にグローバル市場でシェア拡大を目指す、新しいタイプの企業を次々と産出していることでもある。

 具体的には、ボーン・グローバル企業は、いったいどのような企業を指すのか?さまざまな定義があるが、一般には、次のようなベンチャー企業だと定義できる。
■国内市場ではなく、グローバル市場で商品・サービスを販売するビジョンをもって設立される。
■設立後は、国内市場の売上だけでは会社が存続できない。
ボーン・グローバル企業は、インターナショナル・ベンチャー企業とも呼ばれる。

 ボーン・グローバル企業と伝統的な多国籍企業の国際展開とは、大きく異なっている。伝統的な多国籍企業は、あくまでも“多”国籍であるため、国内市場と海外市場と分けて考えたり、国際化の過程においては、物理的/文化的な距離を大きな障害として考えたりしている。

 一方、ボーン・グローバル企業においてはこのような考え方はなく、世界市場を一つのグローバル市場と捉え、常にグローバル市場でシェアをとるという視点で運営されている。 “フィンランド市場において起業した”というのではなく、“グローバル起業した”という考えに基づいているということだ。

 ボーン・グローバル企業の運営は、単に企業内の言語を英語にすればよいというような単純なものではない。グローバル市場でシェアを伸ばすということを考え、地理的な近さではなく、市場がもっとも革新的である地域へのオフィスの早期開設や、そのエリアでマーケティング経験の豊富な人間の早期採用などを行っている。また、マネジメントチームが多国籍になるケースも多い。

【マネジメント】ボーン・グローバル:フィンランドからグローバル・ベンチャー企業をつくる人々のビジネス+IT戦略
ヘルシンキの湖
 たとえば、臨床試験のPDAを用いた電子化ソリューションを開発・販売するCRF社は、1999年に2人のフィンランド人によってヘルシンキに設立された。設立のわずか3か月後には、北米市場開拓のためにアメリカオフィスを開設。2006年1月に訪問した際には、8人の経営陣のうち、設立メンバーの2人を除いて、すべて非フィンランド人という構成であった。

 また、売上げの60%以上が北米市場、残りの多くはドイツ語圏ヨーロッパであり、フィンランドには大規模な製薬会社もなく国内市場も小さいことからも、CRF社のフィンランド国内向けの売上げは、「わずか」ということだった*2

 このCRF社がまさに、ボーン・グローバル企業のよい例だといえる。

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