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  • 2007/09/14 掲載

個人情報「過」保護の見直し(5):立法論か解釈論か(2/2)

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緊急策:プライバシーに属さない個人情報を対象から除く

 個人情報保護法第2条第1項は「この法律において『個人情報』とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」と規定しており、あまりにも対象の範囲が広すぎる。

 この後ろに「ただしプライバシーに属さないものを除く」と追加して、同法の対象はプライバシーに属する個人情報に限定してはどうか。緊急策ではあるが、これだけで現在のトラブルの半分近くが解決してしまう可能性がある。

 個人情報保護法が準拠しているOECDガイドラインの正式の名前が「プライバシー権保護と個人データの流通についてのガイドラインに関する理事会勧告」となっているように、これは本来プライバシー保護が目的のガイドラインなのだ。同勧告の総論の中の「ガイドラインの適用範囲」(b)においても「プライバシー権と個人の自由に対して、明らかにいかなる危険性をも含んでいない個人データについて、ガイドラインの適用を除外すること」を妨げるものと解釈すべきではない、とはっきり謳っている。その後国際的な取り決めは、1995年のEU指令、2000年の米欧のセーフハーバー原則と推移してきたが、常にプライバシーに属する個人情報の保護が目的であったことは明白であるから、この一文を追加することに何の問題もない。

 この追加を行えば、例えば××大学の卒業生であることは、別に恥ずかしいことでも秘匿すべきこともないから、卒業生名簿を廃止しなくてもよくなる。迷惑メールや電話が増えることを懸念する人も居るかもしれないが、名簿を廃止しても迷惑メールや電話は絶対になくならない。名簿を廃止しようという議論は、電話が犯罪の打ち合わせに使われることがあるから電話をやめてしまえという議論に似ている。テクノロジーには光と影の部分が必ずあるのだから、陰の部分をできるだけ防止しつつ、光の部分を延ばすというのでなければ社会の進歩はない。

 なお、プライバシーという言葉を使ったからといって個人情報保護法においてプライバシー全般について規定する必要はない。プライバシーとは個人情報に関わるものだけでなく自律権に関わるプライバシーや、私生活の平穏・静謐を護る権利としてのプライバシーもあるからである。また、個人情報保護法は手続法であるから使用する言葉を全部定義しなければならないということはない。当然、プライバシーとは何かという議論が巻き起こるだろうが、それこそ真に意味のある国民的議論である。個人情報保護法に抵触するかどうかというような法律技術的些細な事柄ではなから大いに意味がある。

抜本的対策:より簡明なものにして、
本人への通知および同意取得義務を大幅に軽減する

 現行の個人情報保護法および関連法規はあまりにも膨大で複雑すぎる。関係省庁も、びっくりするくらい沢山の「ガイドライン」や「通達」を出している。既に21の分野に33本のガイドラインや関連通達が出されている。いずれも個人情報を規制して保護することを至上の価値とするもので、個人情報の活用とその有用性に十分な配慮をしているものは皆無だ。ほとんどがいわゆる上乗せ(*1)ガイドラインの性格のものだから、ますます事態は悪化している。

 連載の第3回、「違憲の疑い(2)」で述べた通り、「表現の自由」のような精神的自由を制限する内容を含む規制は、必要にして最低限のものでなければならないのだから、こんな膨大な法規を作るべきではなかったのだ。つまり、より制限的でない他の選択可能な手段(LRA=Less Restrictive Alternative)が存在し得ないほどに「必要にして最低限」でなければならなかったのだ。

 現在のところ、国際的な取り決めの中で最も簡明で電子商取引や現実の業務との調和を図っているものは2000年に米欧間で合意に達したセーフハーバー原則方式である。プライバシー保護の手段としての本人関与の絶対性は薄れて、情報セキュリティ確保の重要性が代わりに浮かび上がっている。

 この傾向は同原則方式の5年前のEU指令の段階でも既にはっきりしている。例えばEU指令6条および7条の規定によれば、必ずしも情報主体の同意取得が絶対条件ではなくなっている。すなわち、データ主体の重大な利益の保護上、必要な場合や、次のような特殊な場合には通知をしなくても良いし同意を取得しなくてもよい。そのような場合とは、「統計的処理、歴史的・科学的調査のためのデータ処理であって、データ主体に対する情報の提供が不可能、もしくは非常に困難な場合、または記録、開示が法律で 明示的に規定されている場合」である。

 現行の個人情報保護法は、セーフハーバー原則に準拠して、「必要にして最低限」のより簡明なものに作り直していただきたい。

連載第5回終

(*1)上乗せ
国が定めたレベルよりも厳しいレベルの規制を地方自治体などが定めることを「上乗せ」規制という。この他にも規制の範囲をより広範囲にひろげる場合を「裾下げ」、国の規制項目以外にも項目を追加する場合を「横出し」という。


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