• 2008/03/25 掲載

ひろさちやの究極の人生相談:囚人たちのためのルールブック(2/4)

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脱線事故の運転手は地獄に堕ちたか

【質問】
医者だって疲れてくればミスをする。運転手やパイロットだって、人間だからヘマもする。ところが、彼らの場合はそのミスやヘマが、人の命にかかわってしまう。たとえば医者だ。百人救っても、一人を殺してしまったら、やっぱり地獄に堕ちるのだろうか。


【答】
 一番いい例は、JR尼崎の、あの脱線事故だろう。あの脱線事故の主たる原因として、事故調査委員会も報告しているように、事故を起こした者への懲罰的研修、日勤教育が挙げられる。この質問は、少し見方を変えれば、あの事故によって亡くなった運転手は果たして地獄に堕ちるかという質問になると思う。

 私は、そんなことはないと思う。別に自殺をしようと思って、皆を道連れにしたわけではない。つまり、ミスやヘマは人間誰にでも起こり得ることなんだ。だから、そのために地獄に堕ちるということはない。

 ただ、たとえば自分が今日は疲れていてクタクタだということを自覚しながら、それを隠して勤務するということは許されない。それで事故を起こすのと、単にミスをしてしまった結果、事故を起こすのでは罪の重さが違う。

 飲酒運転も同じだ。お酒を飲んでいるのに、「俺はこのくらいは平気だ。むしろ運転もなめらかになる」などといって事故を起こしたとしたら、それはミスではない。未必の故意だ。その区別は重要だと思う。

 直接の答えはここまでだけど、実は、元国鉄マンからこんなことを聞いた。あのカーブに建っていたマンション。あの場所は、元々国鉄の所有地だったそうだ。国鉄時代は、あんな危険な場所に決してマンションなど建てなかった。だからあの土地は所有した上で、遊ばせていた。そんな場所を売るほうがおかしいというのだ。

 国鉄の時代は、親方日の丸だったから、そうした余裕もあった。それが自民党が小さな政府、民営化と叫んで推進してきたから、利益最優先、赤字縮小が大命題になって、ああいう土地も売ってしまった。結果として、その場所にマンションが建つ。あのマンションがなかったら、事故の規模がどれだけ小さくなっていたかと思ってしまう。

 だから、そういう世の中に仕向けた政治家が犯人だともいえる。そんな政治家こそ、皆、地獄に堕ちると思ってほしい。

人ではなく金に頭を下げる

【質問】
私は、便利さが人間をだめにしていると思っている。コンビニもそうだし、インスタント食品やファストフードもそうだ。特にコンビニで、他の客のことなど構わずに、長時間立ち読みをしている若者たちに腹が立って仕方がない。実は、自分もコンビニの雇われ店長をやっているのだが、よく、そうしたお客(?)と悶着を起こしてしまう。礼儀も知らず、ルールもわかろうとしない。そんな人間もお客なのだろうか?


【答】
 人間がだめになっているとか、礼儀が悪いとか、そんなことを判断するのは、コンビニの店長の職務の権限ではないと思う。

 しかも、商売人の心得というものがある。この店長は、心得違いをしているともいえる。 私は商売人の子供だった。父親は戦死して、母親が薬屋を営んでいた。私が子供の頃のこと、母親もまだ若く、お客さんの中には酔っ払いもいて、母親に一所懸命にからんでくる人間もいた。私は子供心に母親がいじめられていると思い、客が帰った後に、「おかあちゃん、あんなお客さんは断ったらいいのに」と怒りながら言った覚えがある。

 そのときに、母親がなんと言ったか。 「お母ちゃんは、あんなお客さんに頭を下げているのと違うねんで、お金に頭を下げているねんで」と言われた。これは一発やられた。母親にしてみれば、別に相手の品性などはどうでもよかった。お金を払ってくれればそれでよかった。あの時代だと、ステテコ一枚で腹巻をして、そこに札束をぱっと入れてくる人もいた。紳士然と背広を着こなして、それでいてしみったれのお客もいた。

 だから、お客さんの質や礼儀を判断する必要はちっともないんじゃないだろうか。マニュアルどおりにやっていればよくって、それ以上の判断は求められていない。そのためにマニュアルがあるのだと思う。

 ところが、さっきの話にもつながるけど、日本人はマニュアル以上のことをしようと思うものなんだね。欧米では、マニュアルに書いてないことをやったら怒られる。それは処罰の対象になる。命令されたこと以上をやってはいけないし、それ以下でもいけない。命令されたことだけしかやってはいけない。

 私がよく出す問題に、以下のようなものがある。

 大統領官邸のゲートの前で、守衛が立ち番をしている。すると、道路の向かい側で一人の男性が通りがかりの女性に襲い掛かってナイフを突きつけ、ハンドバッグを盗もうとしている。守衛はどうすべきか。

 研修でこの問題を出すと、皆、助けに行くと答える。欧米であれば、それは職務違反だ。どんなに危険な状態でも、決して持ち場を離れてはいけない。もし、その強盗劇が狂言で、共犯者が隠れていたらどうするのか。だからこそ、自分に与えられた職務だけを忠実に守ることが大事なんだ。

 ところが日本人は、命令というのは最低限の期待であって、命令以上のことを期待するし、期待されていると思う。それは大間違いだ。

 このコンビニの店長の場合、マニュアルどおりに行動する。もしマニュアルに何分以上立ち読みをしている人間には退場を願うといった項目がないとしたら、そのマニュアルが欠陥マニュアルなのであって、そのマニュアルを作った人間が悪い。そうした場合は放っておけばいい。誰もあなたに頼んでいないよ。

自分のミスならば、黙っていればいい

【質問】
ある企業のポスターを制作して、1万部刷り、納品した。評判は上々だ。ところが数日して見直していたら、大きな誤植を見つけてしまった。先方はまだ気づいていない。これを認めたら刷り直しになり、会社に大変な損害を与えてしまう。だから、見なかったことにした。致命的なミスではないから、気づかれない可能性もゼロではない。気に病む必要があるだろうか?


【答】
 その誤植の責任は誰にあるのか。あなた自身の責任であるのならば、黙っておけばいい。相手が気づくまで、あるいは会社の上司が気づくまで黙っていて、見つかったら謝る。そこでかなり怒られるかもしれないし、責任を取らされるかもしれない。解雇されるかもしれない。それは仕方がない。それまでは黙っていればいい。

 もし、自分以外の仲間のミスであるなら、それは上司に「誤植を見つけました」と報告する。その後のことは上司に判断させればいい。小さな印刷会社であるのならば、社長に言えばいい。あなたが悩む必要はないな。

 それだけの話。これも適度な人間距離の応用問題だ。

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