• 2008/03/25 掲載

ひろさちやの究極の人生相談:囚人たちのためのルールブック(3/4)

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公僕は、奴隷になってはいけない

【質問】
私は公僕として、誇りをもって役所の仕事をしている。しかし、いつまで経っても役所や役人に対する風当たりは強いままで、収まる気配がない。たしかに、社保庁の一件もあり、それも仕方がない風潮だとすら思える。「役人は、間違ったことでも、正しく行う」とすら言われる。「役人みたい」とか「お役所仕事」というのは、決して褒め言葉ではない。しかし、それでも役人は必要不可欠な存在のはずだ。果たして、公僕とはどのような存在なのだろうか。どのような存在であるべきなのか。理解されずとも、粛々と義務を遂行すればそれでいいのか。私は、自分の仕事に誇りをもっていいのだろうか。


【答】
 まず、風当たりなど気にする必要はない。どんな仕事であれ、風当たりが強くなる時期というのはあるものだ。それは、一種、ブームのようなものだ。学校の教師が槍玉に上がったり、お坊さんが職業として成り立つと、お坊さんに対する風当たりが強くなったりもする。

 でも、これは信頼の裏返しなんだ。信頼しているからこそ、ちょっと何か心配になると風当たりが強くなる。最初から信頼されていない職業があるとすれば、風当たりが強くなることもない。

 もちろん、パブリックな仕事というものは必要であって、その仕事を的確にこなしてもらわなければ私たちの生活が立ち行かなくなる。だから皆、基本的には信頼している。その裏返しで、時に風当たりが強くなる。

 だからと言って、決して奴隷になってはいけない。それがアドバイスだ。公僕を英語で言えばパブリック・サーバント。サーバントは奴隷を意味する。

 話はずれるが、奴隷というと、日本人の多くはアフリカから米国に連れてこられ、プランテーション農場などで働かされた肉体奴隷を思い浮かべる。しかし、たとえば古代エジプトにおいては官僚は全員が奴隷だった。奴隷の中には哲学者もいたし、王様もいた。インドの古代史に登場するデリー・スルタン朝最初の王朝は、奴隷王朝と呼ばれる(1206年~1290年)。3人の君主の子孫が支配したが、いずれも奴隷身分の軍人の出身であったからだ。古代ギリシャや古代ローマでは、奴隷による労働が社会生活を支えていたが、彼らは生活困窮者や戦争奴隷(捕虜)で、後に解放されて自由人になることもあった(解放奴隷)。その定義は、金銭で売買される人々だ。

 官僚がなぜ奴隷だったかというと、貴族などと違い、政権や王様に対して一番忠実だからだ。その意味で、公務員は政権の奴隷になりやすいということができる。政権の物差しによって動かされてしまうという意味だ。

 だから公務員は、自分が自由人であるということを肝に銘じなければいけない。政権の言いなりになってはいけない。政治家というものは、一部の特権階級や自らのいわばスポンサーの利益を考える。選挙によって選ばれるから、地元への利益誘導が大事だし、あるいは後援会や推薦をしてくれる団体などがスポンサーということになる。一部の利益を大事にすれば、大多数の国民のためにはならないことは必定だ。それに擦り寄れば、それこそ官僚に対する風当たりも強くなるというものだ。

 官僚、特に高級官僚が政権与党に擦り寄れば、結果として官僚がヘゲモニーを握ることになる。ソビエト連邦もそうであったし、長く日本の政治もそうだった。野党が育たない一党独裁のデメリットがそこにある。これは、民主主義に一番反することだ。

 だから本来は、官僚が野党性を持たなければいけない。マスコミも同じで、政権のチェック機能を放棄し、不偏不党などと言っているようでは、マスコミの権威などあるはずもない。ともかく、官僚は決して、一部の利益に奉仕してはいけない。そのことは、忘れないでほしい。

誰が壊れるかは、誰にもわからない

【質問】
皆同じくらい忙しくて、ほかの者は大丈夫、頑張っているのに、一人だけ精神を病んだり、自殺をしたりする。これは本当に労災なのだろうか?法律論議を聞きたいわけではない。法律上は、労災だと思われる。ただ、弱いこと、しかもそれを隠して他人と同じだと主張していたことに、罪はないのだろうか? 会社側に情状酌量はないのだろうか?私には、心が弱いことが、ときとして大きな罪を犯すものだとすら思えるのだが。


【答】
 ビールの空き瓶を12本入れたプラスチックのケースがある。あのケースを3センチ持ち上げて落としても、ビール瓶は割れない。次に10センチ持ち上げて落としても多分割れない。ところが、1メートル持ち上げて地面に落とせば、多分、1本か2本は割れる。10メートルならば、全部割れるだろう。では、2メートルの高さから落としたら、何本割れるか。私にはわからないが、多分統計的に予想値を出すことができるだろう。破損率という言葉があるが、たとえば破損率10%の高さというのも割り出せるはずだ。

 ここで問題にしたいのは、もちろん数式ではない。どのような場合に、何本のビール瓶が割れる可能性があるということはわかるが、では、12本のうちのどのビール瓶が割れるのかはわからないということだ。

 この人は、見るからに弱いビール瓶が割れると決め付けているのだろうね。だけど、果たして本当にそうだろうか?

 そんなビール瓶があるかどうかは知らないが、破損率というのは、材質も耐久性も同じだと目されているビール瓶の中から、10%ならば10%、計算が単純になるように全部で10本だとすれば、1本が割れるということをいっている。10本のうちの1本が割れるが、どの1本かはわからない。

 パチンコだって、何%入るかは計算されていると聞くけど、どの玉が入るかまでは誰にもわからない。

 人間も、同じだと思ってほしい。自殺した人のことは、皆、「そういえば、顔色が悪かった」とか、「精神的に病んでいるようだった」とか、あるいは「思い悩んでいるようだった」などと評するが、本当のところはわからない。どう見ても頑強そうな人間が突然死することもあれば、最初に音をあげることだってある。

 今、自殺者は年間、3万人ほどだという。3万人も自殺者が出るということは、個々の問題であるようで、実は社会全体の責任なんだと思う。だって、3万人もいるのに、次に誰が自殺するかなんて、誰にもわからない。

 この人は、原因は一つだと見ているようだけど、実は原因などはわからない。むしろ、原因などはないと思ったほうがいい。

 ちなみに原因というのは、実に難しい言葉なんだ。たとえば9人乗りのエレベーターに10人乗ってもまだブザーは鳴らない。ところが11人目に、太り気味のAさんが乗ったらブザーが鳴った。皆がAさんをにらむので、Aさんはエレベーターを降りた。ところがたいていは、まだブザーが鳴り止まない。そこでもう1人、Bさんもエレベーターを降りるはめになった。

 さて、Aさんがブザーが鳴った原因だろうか?

 たしかに、Aさんが引き金になってブザーは鳴った。でも、Aさんは原因ではないんだ。というよりも、Aさんも含めて、11人全員が原因なんだ。だから、Aさんを降ろすというのは酷だ。本当ならば、全員がいったん降りて、くじ引きで1人ずつ乗るのがいい。

 以前、ある医学会で記念講演を行ったことがある。仏教の立場から何かアドバイスがほしいという趣旨だった。そこで私は、「あなた方の医学は間違っている」と言い放った。「インフルエンザになる原因は、果たしてインフルエンザウイルスか?」と聞いた。違うんだ。ウイルスは引き金なんだ。健康であれば、ウイルスに侵されても発病しない。むしろ、過労や体力が落ちていることが原因なんだ。

 もちろん、自殺にしても、エレベーターにしても、引き金を軽視してはいけないだろう。だけど、ここで言いたいことは、原因はそれだけではない。自殺するにしても、いろいろな要因の積み重ねがある。成人病になるにしても、原因は生きていること全部だ。そのことをわかってほしい。

 この人は、自分が病気になったらどう思うのかな? 自分は大丈夫と思っているのだろうけど、今度は自分が割れるかもしれない。こういう質問をすること自体、この人も大丈夫ではないということだと思える。だったら、そんなにケースを高く持ち上げないようにすることを考えるべきだよ。

フランス人なら窓際族になりたがる

【質問】
資料室への異動を打診された。定年までは、まだ10年ある。自分なりに一所懸命やってきたつもりだ。この仕打ちは堪える。さりとて、辞表をつきつけようにも次に行くあてがあるわけでもない。家のローンも残っている。ここは割り切って、趣味の釣りにでも専念すべきか?


【答】
 昔、通訳を入れて、あるフランス人と話をしたことがある。

 私は「日本には窓際族というのがいて、特定の仕事がなく、会社に行って新聞でも読んで、漫然として帰っていく」といったような説明をしたら、そのフランス人は目を輝かせて、「その人は、いったい会社にどんな素晴らしい貢献をして、そんな恵まれたポストに就けたのですか」と質問された。

 それを聞いてびっくりして、通訳に「そうじゃない。本人は『針のむしろ』にいる気持ちなんだ」と言ったら、『針のむしろ』は訳せないというので、『地獄の心境』に変えてもらった。

 そうしたら先方は、「地獄のわけはない。それはまさに天国だ」と言うんだ。フランス人にとって、窓際族は天国なんだ。この人は、資料室で10年も楽をしながら給料がもらえるわけだ。そこで、適当に仕事をすればいいんだよ。別に出世なんかしなくてもいい。生涯賃金では、500万円ぐらい損をするかもしれないけど、過労にならずにすむし、健康的な生活が送れる。家庭を大事にすることもできる。それで家族に、会社の悪口を言いまくればいい。

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