• 2025/10/08 掲載

AI投資で潤う投資家 vs 置き去りの労働者…日本にも迫る「米国の現実」が悲しすぎた(2/3)

連載:小倉健一の最新ビジネストレンド

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
5
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。

日本も他人事ではない米国の「悲しい現実」

 企業のAIへの投資意欲が燃え盛る一方で、労働市場には冷たい風が吹いている。米国で新たに生まれる雇用の数は、過去数年間と比較して劇的に減少した。かつては毎月数十万件単位で増加していた雇用者数が、直近では数万件程度にまで落ち込んでいる。働く人々の賃金上昇率も鈍化傾向にあり、多くの人々がインフレによる生活コストの上昇に追いつけない状況に直面している。この投資と雇用の間の奇妙な断絶は、企業の経営判断に明確に表れている。そして、今米国で起きているこれらの現象は、当然、日本にとって先行指標と言える。

 同じくAxiosに今年9月19日に掲載された記事「Companies are choosing AI investment over hiring, big raises」(『企業は採用や大幅な昇給よりもAI投資を選択している』)では、ビジネス・ラウンドテーブルの調査結果を引用し、この現実を浮き彫りにした。

「大手企業のCEOを対象としたビジネス・ラウンドテーブルの調査によると、38%が今後6カ月で雇用を削減する計画を持っている。一方で、89%は同期間に設備投資を現状維持または増加させると見込んでいる。企業の投資意欲と雇用計画の間に明確な乖離が見られる」(同記事より翻訳・抜粋)

 このデータは、企業経営者が未来の成長のためにAI技術への投資を優先する一方で、人件費というコストに対しては極めて慎重になっていることを示している。これまで人間が担ってきた事務作業、データ分析、顧客対応といった多くの業務が、AIによって次々と自動化され始めている。この流れは、企業にとっては生産性向上とコスト削減という大きな恩恵をもたらす。働く人々にとっては、自らのスキルが陳腐化し、仕事が奪われるかもしれないという直接的な脅威となる。

「超巨額」投資が雇用に結びつかないワケ

 なぜ、これほどまでに巨額の投資が、広範な雇用創出に結びつかないのか。この現代経済が抱える最大の謎を解き明かす鍵は、米国の中央銀行の1つであるミネアポリス連邦準備銀行のニール・カシュカリ総裁が提示した分析にある。カシュカリ総裁は、今年9月19日に公開したエッセイ「Three Questions」の中で、このパラドックスに対する明快な説明を与えている。

 カシュカリ総裁によると「新しいデータセンターを建設するには多くの人々が必要だが、それを運営するにはごく少数の人間しか必要ない。このため、労働市場と株式市場はどちらも正しい可能性がある。テクノロジーが、多くの労働力を必要としない産業の急成長を牽引し、結果として株式市場の活況と停滞した雇用環境が同時に生まれているのだ」という。

 この指摘は、現代の資本の流れが根本的に変化したことを示唆している。かつての産業革命では、工場建設への投資が、多くの労働者を必要とする生産活動に直結し、大量の雇用を生み出した。現代のAI革命では、データセンターのようなハイテクインフラへの投資は、建設段階で一時的な雇用を生む。施設の運営段階では、ごく少数の高度な専門知識を持つ技術者しか必要としない。資本は、労働集約的な産業から、極めて資本集約的で労働力を必要としない産業へとシフトしている。この構造変化こそが、金融市場の熱狂と労働市場の停滞が両立する理由である。

 この複雑な状況について、米国の金融政策を司る連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長も慎重な見方を示している。パウエル議長は、今年9月17日の記者会見において、AIが雇用に与える影響について、多角的な視点から言及した。

 パウエル議長は「大学を卒業したばかりの若者を採用してきた企業や組織が、以前よりもAIを活用できるようになったのかもしれない。ただ、より広範な視点で見れば、雇用創出全体が減速し、経済が減速していることも物語の一部だ。AIだけが原因ではなく、複合的な要因が絡んでいる」と述べた。

 パウエル議長の発言は、AIの急速な普及という技術的要因だけでなく、金利の動向や世界経済の不確実性といった、よりマクロな経済環境も労働市場の軟化に影響していることを示唆している。AIは変化を加速させる触媒ではあるが、すべての原因ではないという冷静な分析である。 【次ページ】 AI投資ブーム「日本ならでは」の事情
関連タグ タグをフォローすると最新情報が表示されます
あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます