- 2025/10/08 掲載
AI投資で潤う投資家 vs 置き去りの労働者…日本にも迫る「米国の現実」が悲しすぎた
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長。現在、イトモス研究所所長。著書に『週刊誌がなくなる日』など。
「景気の良さ」感じない背景にある「巨大な溝」とは
現代の経済は、極めて興味深く、同時に不可解な状況を呈している。株式市場は記録的な活況に沸き、特に米国ではAI関連企業の株価は天井知らずの上昇を続けている。企業の時価総額は天文学的な数字に達し、投資家たちは大きな利益を享受している。しかし、世間の人々が日常で感じる景況感は、金融市場の熱狂とは大きくかけ離れている。多くの人々は、賃金の伸び悩みと物価の上昇に苦しみ、景気の良さをまったく実感できていない。
この金融市場と実体経済の間に存在する巨大な溝の中心には、人工知能、すなわちAIへの歴史的な規模の投資ブームが存在する。企業は未来の覇権を握るためにAI開発に巨額の資金を投じる。働く人々は、自分たちの仕事がAIに奪われるのではないかという漠然とした不安を抱えている。この構造的な変化は、テクノロジーが社会経済に与える影響の新たな段階を示唆している。
AI革命をけん引する巨大テクノロジー企業群は、未来のデジタルインフラを構築するために、国家予算に匹敵するほどの資金を注ぎ込んでいる。
企業の投資規模は「もはや国家レベル」に?
マイクロソフト、グーグル、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)といった世界的な企業は、AIの頭脳となる高性能半導体チップの確保や、膨大なデータを処理するデータセンターの建設に、年間で数十兆円規模の設備投資を行っている。この投資の熱狂ぶりは、米経済メディア「Axios」が今年8月4日に報じた記事「Behind the Curtain: The AI super-stimulant」(「カーテンの向こう側:人工知能のスーパー刺激剤」)で克明に描き出されている。記事では「アルファベット、グーグル、アマゾン、メタの4社は、主にAIインフラを構築するため、今年合計で4,000億ドル(59兆円)近くを設備投資に費やすだろう。テクノロジー投資家のポール・ケドロスキー氏はこの状況を『ある意味で、巨大な民間セクターによる景気刺激プログラムが米国で進行中だ』と指摘している」と報じられている。
この報道が示すように、一部の巨大企業による投資活動は、もはや一国の経済政策に匹敵するほどのインパクトを持っている。投資の規模は、2000年前後のドットコムバブル期の通信インフラ投資のピークを遥かに超え、19世紀の米国で国のかたちを変えた鉄道建設ブームに迫る歴史的な水準に達しているのだという。
この莫大な資金の流れは、米国経済の成長を力強く下支えするエンジンとなっている。GDP統計を見ても、個人消費の伸びが鈍化する中で、AI関連の設備投資が経済成長の主要な貢献者となっていることは明らかである。 【次ページ】日本も他人事ではない米国の「ある悲しい現実」
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