• 2014/03/28 掲載

「グローバルITガバナンス」の先進事例と成功要件<前編>(2/2)

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ガバナンスの形態は、いくつかに類型化できる

 今回調査した各社は、セキュリティに関しては、グローバルに強制力を持って進めていますが、ITコストマネジメントや業務プロセスとアプリケーションのグローバル標準化、統合になると、進め方に差があります。以下に、調査した事例を3つのガバナンス形態にまとめ、それぞれのポイントを示します。

1) トップダウン型

 経営トップの具体的な指示に基づき、専任CIOが、KPIを明確化し、これをトップにコミットし、トップダウンに組織・権限をCIO主導に改革し、短期間にトップの指示を実現するというガバナンス形態です。今回調査した海外企業3社と、日本のCIO専任の企業1社で実施されていました。

(1)経営トップの具体的な指示
 本形態の各社は、経営トップからCIOに対して、システム部門としてビジネスへ貢献する具体的な指示が出ています。大規模なM&A後に、2社のシステム並存を改め、ITコストを削減し、戦略的なIT投資へ回せるキャッシュを増やす。変化の激しい業界において、日次で決算予測を把握し、市場変化に迅速に対応する。そのために、ローカル(地域、国)ごとに投資された部分最適なITをグローバルに統合、全体最適化する。これによって、ITコストの削減も果たす・・・。このような指示の背景として、経営トップは、目指すべきITのハイレベルの姿を具体的にイメージしていたと考えられます。

(2)KPIの明確化とコミットメント
 本形態の各社は、経営トップの指示に応じて、CIOがKPIを明確化し、達成をトップに対してコミットし、そしてそれを実現しています。KPIとは、例えば売上高ITコスト比率や、アプリケーション、データセンターなどの統合後の削減数などです。

(3)トップダウンな組織モデル確立。人事権、予算権掌握
 本形態の各社は、上記KPI達成のために、まずグローバルなIT組織の改革を行っています。それは、ファンクション(業務プロセスの大きな単位:生産、会計など)ごとに全体最適を考えながら、ローカル(地域、国)や事業とのアライメント(整合性)をとるためのマトリクス組織。あるいは、各国のIT責任者に、領域ごとにグローバルグループの全体最適をマネジメントさせる兼任体制などです。 合わせて、グローバルにIT組織の人事権、各事業部、現地法人のIT予算権をCIOに移し、トップダウンにリーダーシップを発揮して、上記KPIの達成を行っています。

 海外企業の場合、上記に加えて、グローバルに配置されたIT人材を、目指すべき1つの方向に動かすため、CIOはオペレーションに関しても明快なモデルを提示しています。これは例えば、世界中に配置されたシステム部門メンバーが、常に全体最適の行動がとれるオペレーションモデルで、ビジネス側の目指すビジョン(5年後、2~3年後、12~18ヵ月後)を、目指すべきビジネスアーキテクチャー、ITアーキテクチャーに展開し、現状とのギャップを埋めるプランを作成し、システム化して運用することで、このギャップを埋めるというものです。

(4)CIOの専任
 上記(3)に示す、組織や権限の改革を含めたガバナンス確立が出来た背景として、本形態の各社で、CIOが専任であることがあげられます。CIOが専任でない場合、結局システム部門長が実践方法を考えることになり、組織や権限までを改革するガバナンス確立が難しくなると考えられます。

 なお、海外の2社では、経営トップの指示に関して、これを実践した経験がある外部人材をヘッドハントして、CIOに据えています。本形態の場合、達成すべきことが大掛かりで、またスピードを求められており、失敗した場合のリスクも大きく、CIOの手腕が成否を決めることから、実績を重視して社外から人材を求めたものと考えられます。

2) システム部門長主導のボトムアップ型

 既存の組織や、権限を大きく変えず、ガイドラインや実態報告とレビューなどの仕組みによりガバナンスを効かせる形態です。国内企業7社中6社が、この形態でした。この形態は、現状を大きく変えない分、リスクは少ないと考えられます。しかし、1)のトップダウン形態に比べて、改革達成に時間がかかることになります。また、ビジネス側でグローバルな業務改革の戦略が曖昧なまま、システム部門の問題意識で業務プロセス、アプリケーションのグローバルな統合を行う場合、IT投資が嵩む中、ビジネス側がリターンを生み出さず、IT投資そのものが滞ることがあります。

(1)コミュニケーションによる相互理解
 本形態の各社は、前述1)のトップダウン型のように、組織や権限をCIOの下に集中することはしていません。そこで、本社と各国のシステム部門は、コミュニケーションによって相互理解を深め、これを軸にガバナンスを確立しています。

 例えばITコストマネジメントは、各社からの報告とこれのレビューによって実施されています。具体的には、投資タイプ、投資金額ごとにレビュー方法を確定し、投資前、投資実施中、投資後にレビューを行っています。然るべき体制でレビューを行えば、たとえ拒否権がなくても、事業部や現地法人は説明して了解を得るために事前の突き詰めを深かめ、ITコストの削減や妥当なコスト水準の維持に貢献することが可能です。

 IT戦略の実践でも、コミュニケーションが重視されます。具体的には、本社システム部門と各国IT責任者で毎年開かれるITに関わる「グローバル会議」で、方針や計画を合意します。また、方針や計画レベルで合意形成できても、実施段階で問題が起きることがあるため、日本から各エリアに派遣した駐在員がエリアを支援しながらその動向をフォローし、必要があれば本社が是正を行っています。

(2)グローバルITガバナンスの準備
 本形態の各社が、人事権や予算権限無しにグローバルグループをまとめるには、ガバナンスの基盤を作り上げる準備が必要になります。それは、グループ企業のグローバル全体最適に向けた意識改革、グローバルに仕事が出来る人材の獲得育成、海外グループ企業システム部門からの日本本社のシステム部門への信頼の獲得、経営者の理解を得た上での予算確保などです。これらの準備は、計画的に進めることが重要になります。これらについては、後半で詳しく述べます。

(3)ビジネス側戦略との同期の必要性
 ボトムアップ型でグローバルITガバナンスを確立する場合、ビジネス側の戦略との同期をどのように取るかが、重要な論点となります。事例では、ビジネス側がグローバルな業務改革を求めないならば、ITが先んじてアプリケーションの標準化、統合を行っても投資は回収できないと判断し、グローバルなアプリケーションの統合まで実施していない企業があります。現在この企業では、経営トップが、グローバルな業務プロセス統合による業務改革の必要性に言及し始めていることを受け、日本と各国のIT人材による共同検討プロジェクトを作り、今後のグローバルITガバナンスに関わる検討を開始しました。

 また、経営側から「エリアマネジメント戦略」が出された企業では、今後エリア別に統括会社を置き、グローバル化が推進されます。本戦略に従い、今後は、エリア別にスタッフ機能をエリア本社に集約していくといった業務改革が進められます。そこでシステム部門では、エリアマネジメント戦略を支援する形で、システム部門の機能やガバナンスをレベルアップしていく予定です。 一方、他の企業では、業務プロセスとアプリケーション統合の企画段階で、システム部門が企画部門と共同で、ビジネス側に対してグローバルな業務改革の必要性を明確化しています。しかし、その握りが不十分だったため、ITが業務プロセスとアプリケーションの標準化、統合を進めても、ビジネス側がこれを活用したグローバル業務改革を十分に推進せず、リターンが上がっていない状況にあります。

3) ビジネス側業務改革ファースト型

 先の2)でも示した通り、ボトムアップ型では、ビジネス側戦略とITガバナンスの同期を取ることが重要です。調査した企業の1社では、前述2)に示す、ボトムアップ型のガバナンスを確立しています。ただし、ビジネス側にBPR(業務改革)推進組織を設立し、ここがまず業務改革を実施し、グループとして目指すべき標準化、統合されたプロセスが明確化されてからIT投資を行うことで、ビジネス側戦略との同期をとっています。

 この企業では現在、国内グループ会社間で、生産管理・製造管理領域で、業務プロセスとアプリケーションの標準化、統合を進めていますが、これができたのは、ビジネス側BPR推進組織が存在していたからです。本組織は、本社に設置され、事業を超えてグループの業務を横串で改革しています。今後この企業では、他の領域に関しても、まずBPR推進組織をビジネス側に確立し、ここがグループ会社を事業横串で業務改革を進めてから、システム部門がそれを支援する予定です。

 なお、業務プロセスとアプリケーションのグローバルな標準化、統合を行う場合、「日本と海外を統一して考えるか?」という論点があります。

 国内市場では、多くの日本企業が、顧客要望に決め細かく対応しています。グローバルに業務プロセスとアプリケーションを標準化・統合する場合、日本を基準にすると、このきめ細かい、つまりコスト高の標準でグローバルに統一することになり、また、海外市場でそこまでのきめ細かさは求められていないため、現実的ではありません。一方で、業務をシンプル化してグローバル標準を作り、これに日本も合わせる場合、自社1社だけがこれを行うと、国内市場で競争相手に比較してきめ細かな顧客対応ができず、シェアを失う脅威があります。

 将来性を考えると、成長が鈍化する日本市場よりも、急成長する新興国にリソースを配分すべきでしょう。一方、日本でシェアを落として(負けて)グローバルに勝てるのかという心配もあります。

 今回調査した国内企業2社では、この論点に関し、国内と海外は、それぞれ別の標準を作り、国内は国内、海外は海外で、業務プロセスとアプリケーションを統合することを選択しています。

 上記論点は、ビジネス側で考えることですが、この方向性によって、ITの目指す姿も、確立すべきグローバルITガバナンスも異なります。今後のグローバルITガバナンスを考える上で、重要な論点となります。

*本事例以外の先進事例調査レポートを紹介しています。ご参照下さい。

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