• 会員限定
  • 2020/03/06 掲載

日本ではイメージ良好のGAFA、なぜ世界中で嫌われているのか

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表される巨大プラットフォーム企業が隆盛を誇るなか、世界中で「反GAFA」勢いを増している。新著『After GAFA 分散化する世界の未来地図(KADOKAWA刊)』を上梓した小林弘人氏が指摘する、日本ではイメージが良いGAFAがこれほどまでに嫌われている理由とは。

小林 弘人

小林 弘人

株式会社インフォバーン共同創業者・代表取締役CVO。『ワイアード』『サイゾー(2007年に売却)』『ギズモード・ジャパン』など、紙とウェブの両分野で多くの媒体を創刊。2016年よりベルリンのテクノロジーカンファレンス「TOA(Tech Open Air)」の日本公式パートナーとして、日独企業の橋渡しや双方の国外進出支援を行なう。著書に、『ウェブとはすなわち現実世界の未来図である』(PHP新書)、監修、解説書として『フリー』『シェア』『パブリック』(ともにNHK出版)ほか。

photo
小林弘人氏が指摘するGAFAがこれほどまでに嫌われている理由とは

ドイツでのキャンパス建設を諦めたグーグル

 ドイツ、ベルリンのフリードリヒスハイン=クロイツベルク区(以下、クロイツベルク) は、さまざまな意味でいま、もっともホットなエリアといっていい。

 1990年以降、シュプレー河畔のベルリンの壁跡には、世界各国のアーティストが描いた100点以上の壁画が、1.3キロメートル以上にわたって続く。多くの学生やアーティストが暮らしていることもあり、センスのよいショップやカフェが立ち並ぶ。

 その一方、昔からトルコ系移民がトルコ人街をつくり、最近ではシリア系移民が増えていることもあって、ドイツのなかでもとりわけ東西・新旧文化の混淆(こんこう)が進んでいる。クロイツベルクを含め、ベルリンには高感度の若者や起業家、ベンチャーキャピタル(VC)や投資目的に事業支援を行なうアクセラレーター(投資などを目的に起業支援する者・組織)、さらには大企業のラボがヨーロッパ中、いや世界中から集まっている。

 そのベルリンのクロイツベルクで2017年末から、激しい住民反対運動が起こった。対象となったのは、トルコやシリアからの移民だったのか? 否、反対運動の矛先が向かったのは、グーグルだった。

 グーグルは同地区の工業用建物などを改築し、自社名を冠した「キャンパス」と呼ばれる起業家支援を行なうインキュベーション・ハブやコワーキングスペース、カフェなどをつくる計画を進めていた。それに市民団体が激怒したのである。

 理由はいくつかあるが、その一つに不動産価格の高騰がある。再開発によって高所得の人々が流入し、不動産価格が上昇、別の地域へと移り住まねばならない人が急増するという懸念だ。街中には、“Let’s stop the Google campus”などの文言が書かれたチラシが貼られ、「反グーグル」を売りにしたカフェまで登場。あまりの反対運動の激しさに、グーグルはキャンパスの建設を諦めた。

 しかし、日本人の感覚からすれば、これほど激しいグーグル反対運動が起こったのは、腑に落ちないのではないか。日本の大学生が就職したい企業ランキング(2019年2月28日付、マイナビニュース)で、グーグルは堂々の3位。日本の原宿や代々木、湾岸エリアあたりにグーグルがお洒落なキャンパスをつくるとなれば、みな諸手(もろて)を挙げて賛成し、そのキャンパスで働きたいと思うにちがいない。

 グーグルは新技術や新製品を開発する拠点を世界中に設けており、イスラエルのテルアビブやイギリスのロンドン、韓国のソウル、スペインのマドリード、ブラジルのサンパウロ、ロシアのワルシャワにキャンパスが置かれている。東京でも、2019年11月19日に「Google for Startups Campus」を、同日本本社が入る「渋谷ストリーム」内に開設した。

 ドイツでもグーグルは2014年にベルリンのミッテ区でファクトリーを開設している。ファクトリーとはコワーキングスペースやミーティングルームを備えた起業家のためのサロンで、そこで「製造」しているのはスタートアップ企業だ。ミッテ区はベルリン中部に位置し、かつては東ドイツの中心だった地域だが、古くからの住民がほとんどいないという点で、クロイツベルクとは異なる。

 さて、じつはクロイツベルクの反対派が怒ったのは、不動産価格の高騰だけではなかった。グーグルをはじめとするGAFAは、才能ある人々を次々と取り込んで巨大化し、ユーザーの個人情報を使って莫大な利益を上げる一方で、タックスヘイブンへの資金移動などのテクニックを駆使し、自国への納税を回避している、と非難したのである。

 2019年1月、フランスのデータ保護機関CNIL(情報処理と自由に関する国家委員会)が、個人データの収集についてEU(欧州連合)の法律であるGDPR(一般データ保護規則、2018年施行)に違反したという理由で、グーグルに5000万ユーロ(約62億円)の制裁金の支払いを命じた。民衆のグーグルへの反発が、このクロイツベルクには渦巻いていたのである。

なぜSXSWは急に内省的になったのか

 毎年3月にアメリカはテキサス州のオースティンで開催されるSXSWは、ITや音楽、映像、ゲームに関する巨大イベントであり、ツイッターがブレイクするきっかけになったことでも知られる。

 私も毎年SXSWを訪れ、新たに生まれる先端サービスの情報を仕入れながら、トレンドの変化を感じてきたが、2019年に開催されたSXSWの雰囲気は、いつもとはずいぶん異なっていた。

 まず開幕初日、米民主党議員で2020年大統領選の候補指名争いに加わるエリザベス・ウォーレン上院議員が登壇。「GAFA解体」を公約に掲げ、巨大テック企業による寡占を問題視する彼女が、テクノロジーの祭典であるSXSWに乗り込んだのだ。

 数年前であれば、ウォーレン氏のようなテクノロジー企業の敵と目される人物を開幕初日にSXSWが呼ぶことは、想像し難かった。さらに開催期間中、フェイスブックの関係者が登壇してスピーチしようとすると、セッションの参加者から「フェイスブックのせいで、うちの娘がイジメに遭っている!」「時価総額を上げることばかり熱心だが、フェイクニュースを何とかしろ!」という批判の声が上がったという話を参加した知人から聞いた。そうした批判の声が上がるたび、観客たちは拍手喝采し、会場が盛り上がったという。 

 私が参加したセッションでは、イングランド銀行などを顧客にもつイギリスのデジタル・エージェンシー「サイバー・ダック」のダニー・ブルーストーンCEO(最高経営責任者)が、暗にフェイスブックを念頭に置きながら、「デジタル時代の信頼は壊れている」というテーマで、これからの企業ブランドのあり方は「信頼ベース」をめざすべきだと強調した。

 その他のAI(人工知能)やブロックチェーンに関するセッションでもブルーストーン氏と同様、「信頼」「倫理」などの言葉が見られた。テクノロジー楽観主義に満ちたSXSWが、急に内省的になったかのようだった。

【次ページ】アマゾンもフェイスブックも嫌われる

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます