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- 2022/02/24 掲載
物流大混乱でマックポテト不足へ……危機を乗り越える「新・サプライチェーン論」とは
【連載】現役サプライチェイナーが読み解く経済ニュース
コロナ禍で物流網は大混乱、国内の影響とは?
2022年1月初旬に、日本マクドナルドが1か月程度マックフライポテトをSサイズのみの販売とするとのニュースが流れました。昨年の12月末にも1週間の同様の限定販売を行っており、その前日にはM・Lサイズの“食べ納め”のための駆け込み客の行列ができました。その理由として、カナダ・バンクーバー港近郊での水害や、コロナ禍での世界的な物流網への混乱の影響が挙げられます。そうした中、全サイズの販売再開は結局2月上旬まで待つこととなりました。
また、昨年11月にはファミリーマートなどのコンビニエンスストアのチキンが品薄になるニュースがありました。この時期、需要が大きいクリスマスチキンの予約の一部休止を余儀なくされることになりました。原因はコロナ禍の影響でタイの生産工場の人員が不足してしたことが関係していると言われています。
さらに、昨年11月中旬に発生したカナダの洪水が、およそ1カ月後には日本の外食産業に影響を及ぼすなど、日本のサプライチェーンは世界と密接につながっていると改めて実感させられます。こうしたコロナ禍による物流網の混乱で、輸送時間が通常よりかかっている状況です。
今いったい何が起きていて、これからのサプライチェーンマネジメントには何が必要となってくるのでしょうか。
海外でも影響大、供給遅延3つの原因
世界的に見てもサプライチェーンの混乱による供給不足は、日本だけに限りません。BBCニュースで、英国でのクリスマス前に子供向けのスパイダーマンのおもちゃ、自動車の導体、建築資材など広範なモノの不足が起こっていることが報じられています。その主な理由として、以下の3つが挙げられています。
(1)需要の増加と供給の不足
コロナ禍によりイベントなどでお金を使わなくなった代わりにモノに対する需要が増えた。しかし、同時に工場閉鎖・減産などにより供給が少なくなることで、需要の増加に対して供給が追い付いていない状況。
(2)海運の混乱
世界の90%のモノを運んでいる海運でコンテナ船が通常どおりの予定で運行できていない。運送費が上昇し、港での労働力が不足している。
(3)アメリカの政策による影響
中国からの輸入の依存を低めるために供給先を変更しようとする動きが混乱に影響している
今年1月に入っても、中国からアメリカやヨーロッパ向けのコンテナ船が遅れていて、中国の上海や香港近辺では100隻以上のコンテナ船が荷積みを待っている状況があります。一方、アメリカの西海岸では69隻のコンテナ船が荷降ろしを待っている状況で、こうした状況はまだ続くと報じています。
日本でもコロナ禍により2020年は輸出・輸入額が大きく落ち込み、輸入額の対前年同月の伸び率では、2020年5月にマイナス25.7%でした。しかし、2021年8月にはプラス44.5%と今年に入って回復傾向にありました(労働政策研究・研修機構、 国内統計:輸出額、輸入額)。
とはいえ、コロナウイルス感染の第6波が発生している中、このままの回復傾向が続くかは予測できない状況と考えます。このような予測が難しい状況に対して、各企業はどのようなアクションを実行しようとしているのでしょうか。
従来のサプライチェーン対策に欠けていた要素
2021年、エコノミスト誌の調査部門(米ASCMの協賛)によって、サプライチェーンの混乱とレジリエンスの必要性についてのレポートが発表されました。レジリエンス(resilience)とは、復元力、回復力を意味する言葉で、想定を超えた事態に対して元の状態に戻る能力を意味します。このレポートは米国の上場している小売、製薬、家庭用電化製品業界の308社に対してベンチマークを行い分析しています。
ここ30年間のサプライチェーンの考え方はリーン(むだがないこと)、効率、コスト管理を強調してきていました。しかし最近になって、特にコロナ禍、貿易緊張などによるリスクの予測が難しくなってきている中、効率とレジリエンスのバランスを再考することが重要になってきているとの提言がなされています。
また、分析の結果、以下の4つの点が重要と強調しています。
(1)BCP(事業継続計画)とその実行手引書には、どのような場合に実行を開始するかを明示する必要がある
(2)全体を見渡す見える化ができていないため、動的で予測できないリスクに対して、企業が脆弱な状況である
(3)主要な顧客・サプライヤーと長期的な関係を築き、戦略的なサプライチェーンのレジリエンスを構築しようとしている
(4)気候の変動が21世紀の最大のリスクだが、炭素排出のターゲットを設定している企業でさえも実際に実行していることとのギャップがある
また、小売業界より家庭用電化製品業界の方が、さらに売上が小さい企業より大きい企業の方が、実際の活動が進んでいるとの調査結果になっています。
しかしながら、今回のコロナ禍の経験などで、BCPは存在していても想定していたとおりに機能していなかったり、全体の見える化を進めていたとしても、たとえば船が滞留していることは分かっても品物がいつ入荷するかが分からなかったりと、うまく機能していないという声が上がっています。こうした指摘は、まさに今のサプライチェーンの実情を反映しているものと考えます。
では、実際にサプライチェーンのレジリエンスを構築するためには、どういったアプローチが考えられるでしょうか。
【次ページ】サプライチェーンを強固にする「10のポイント」
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