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- 2022/02/14 掲載
フィジカルインターネットとは何か?課題だらけの国内物流を「超・効率化」する仕組みとは
連載:第4次産業革命のビジネス実務論
フィジカルインターネットとは
フィジカルインターネットとは、複数の企業が保有する倉庫やトラックをシェアリングし、物資を効率的に輸送しようとする、新しい「物流システム」の考え方を指します(図表1)。具体的には、IoTやAI技術を活用することで、物資や倉庫、車両の空き情報などを見える化しつつ、貨物も規格化された容器に詰めて管理します。こうして管理された貨物は、複数企業の物流資産(倉庫、トラックなど)をシェアして構築したネットワークを通じて輸送されます。
こうすることにより物流効率は高まり、物流需要増加やドライバー不足の解決手段になるほか、燃料消費量を抑制し温室効果ガス排出量を削減につながると考えられています。
フィジカルインターネットと呼ばれているのは、パケット交換、回線の非占有など、インターネット通信の考え方を物流(フィジカル)に適用しているためです。
フィジカルインターネットが注目される理由
経済産業省、厚生労働省、文部科学省がまとめている「2021年版ものづくり白書」では、拠点間を結ぶ物流についての課題が顕在化していることが取り上げられています。同白書によると、貨物輸送量の需要が増加する中で、トラックドライバー数は減少傾向で推移しており、このままでは2030年には需要量の3割以上が運べなくなる可能性があると推計されています(図表2)。物流課題の解決については単独の企業で進めることは難しく、複数企業間でデータを共有し、共同輸送や巡回輸送による効率化、輸送資材や業務プロセスの標準化による効率化を進めることが必要であると述べられています。こうした物流課題解決の方法として注目されているのが、「フィジカルインターネット」です。
昨今、このフィジカルインターネットは、カーボンニュートラルの取り組みを追い風に、欧州を中心に活動が活発化しています。輸配送・保管単位および物流リソースの標準化と共に、RFIDやIoT、AIなどの手段で収集・蓄積した物流データを、事業者や荷主などが共同利用することで物流効率化を目指す取り組みが進んでいます。
日本では、経済産業省および国土交通省が、2040年を目標とした物流のあるべき将来像として、「フィジカルインターネット」の実現に向けたロードマップを策定するため、フィジカルインターネット実現会議を2021年10月から開催しています。
しかしながら、日本においてフィジカルインターネットはまだコンセプトの域を完全には出ていないと考えられ、同会議では2030年をフィジカルインターネット実現に向けた節目と捉えていることを表明しています。
欧州の先行事例、普及促進のために何をしている?
欧州では2013年に欧州委員会の意向を受け、ロジスティクス分野における研究開発・イノベーション政策の意思決定を支援する目的で、ALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)という非営利団体が設立されています。設立においては、物流関連のあらゆるステークスホルダーを結集すべく、産官学から荷主(メーカー・小売など)、3PL(サードパーティー・ロジスティクス、荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託し遂行する企業)、不動産会社、物流機器会社、IT企業、コンサルティング会社、学術機関、リサーチセンターなどの多くの企業や団体が集結しています。
ALICE設立の背景には、ロジスティクスやサプライチェーンの生産性向上のためには、荷主と物流企業との緊密な連携が必要との課題認識があり、こういったプレイヤー間の連携を促進することが、欧州委員会が定めた2030年の温室効果ガス削減目標達成には重要であるとの考えがあります。
このALICEは2019年にロジスティクス領域でのゼロエミッションのロードマップを、2020年にフィジカルインターネットのロードマップを策定し、産業界でフィジカルインターネットの普及促進を図っています。現在、約130の企業、研究機関が参加し、活動を行っています。
【次ページ】国内食品業界の事例、味の素・ハウス食品などの取り組み
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