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  • 2022/07/13 掲載

物価上昇でもう限界?100円ショップは「100円均一」を維持できるのか

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日本経済が長期低迷する中、順調に市場を拡大してきた100円ショップのビジネスが曲がり角を迎えている。言うまでもなくその原因は、近年、激しさを増している物価上昇である。そもそも30年間、値段が変わらないというのは、ある種の異常事態であり、100円均一という安値で商品を販売する仕組みそのものが、限界を迎えている。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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日本経済が長期低迷する中、順調に市場を拡大してきた100円ショップのビジネスが曲がり角を迎えている
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

安価な輸入品に支えられ、急成長を実現

 デフレが長く続いた日本において、100円ショップは業績が順調に拡大する数少ない業態の1つであった。帝国データバンクによると、100円ショップ大手5社の売上高は10年間で2倍近くの伸びを示している。

 100円ショップのビジネスモデルを支えているのが、安価な輸入品であることは説明するまでもないだろう。100円ショップと聞くと、安い価格で商品を販売していることから、薄利多売のビジネスをイメージする人も多いが現実は少し異なる。100円ショップで売られている商品の平均的な仕入れコストは70円程度であり、小売店の中では利益率が高い部類に入る。

 しかしながら、100円ショップはたいていの場合、条件の良い場所に店舗を構えており、店舗の維持コストは極めて高い。また、商品の種類によっては在庫の回転率があまり高くないため、相応の利益率を確保しておかないと、そもそもビジネスとして成り立たない。

 それでも、すべての商品が100円に対して70円で仕入れができているのかというとそうではなく、仕入れコストが100円をオーバーしている商品も多い。一方で、圧倒的に安く仕入れることが可能な商品もあり、商品の組み合わせを最適化することで平均70円の仕入れコストを維持する仕組みになっている。つまり、安く仕入れることができる商品については、極限までコストを引き下げることが同業態にとって至上命題となる。

 100円ショップに並ぶ商品の多くは、中国や東南アジアなどで生産されており、こうした安価な工業国の存在が100円ショップのビジネスを成り立たせてきた。ところが、近年、全世界的に物価高騰が進んでいることから、各社は仕入れコストの上昇に悩まされている。日本の場合、ここに円安が加わっており、今後、仕入れ価格がさらに上がることが懸念される。こうした事態をもっとも端的に反映したのがダイソーの300円ショップだろう。

 最大手のダイソーは2022年4月、東京・銀座の商業施設に旗艦店をオープンしたが、同時展開した3店舗のうち2店舗は100円均一ではなく、300円など、より高い価格帯の商品が中心となっている。実は100円ショップ各社は、以前から商品の中に200円や300円といった単価の高いものを加えており、平均的な商品単価が上がっていることは、100円ショップをよく利用する人の間ではよく知られていた。

 資材価格の高騰や円安によって輸入品の価格が上昇している以上、従来と同一条件で商品を販売することは、さらに難しくなると予想される。

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中国や東南アジアなど安価な工業国の存在が100円ショップのビジネスを成り立たせてきたが、近年、全世界的に物価高騰が進んでいるほか、円安の影響も加わり各社は仕入れコストの上昇に悩まされている
(Photo/Getty Images)

均一価格の水準は変化するのが当たり前

 100円ショップのような均一価格販売は、主に米国で発達した業態であり、同国では多くの事業者が、いわゆる1ドルショップを展開している。だが、米国の1ドルショップは、ずっと昔から1ドル均一だったわけではない。以前は25セント均一という店が多く、その前は10セント均一という時代もあった(10セント均一の店舗は、10セント硬貨の別名であるダイムにちなんでダイムストアなどと呼ばれていた)。

 その後、物価の上昇に伴って25セントが50セントになり、最近になって1ドルショップというものが定着した。ところが米国では、ここ10年インフレがさらに顕著となっていることから、1ドル均一での販売が難しくなっている。ブランド名として1ドルを名乗っているところは多いが、現実には1.5ドルや2ドルなどで販売を行う店舗が多い。つまり、100円均一という業態が30年も続き、実際に売られてる商品も100円のままというのは、日本だけの現象であり、これは本来あってはならない姿と言って良いだろう。

 では、仕入れ価格の急騰という問題に直面した100円ショップは、今後どのような展開を見せるのだろうか。

 体力のない一部の100円ショップは、一連の物価高騰で廃業に追い込まれており、今後、大手の寡占化がさらに進むことは間違いない。ダイソーのように300円均一の店を展開したり、100円ショップというブランド名は維持しつつも、単価の高い商品をポートフォリオに加えるという流れがさらに拡大すると予想される。

 もっとも、日本経済は低迷が続いており、商品価格が上がれば、当然のことながら販売数量に影響する。日本の場合、内容量を変えず価格を上げたケースと、内容量を減らして価格を据え置いたケースでは、圧倒的に後者の方が販売数量を維持できることが多い。100円ショップ側としては、単価を上げる一方、可能な限り100円均一を維持したいと考えるのは当然かもしれない。

 今後も100円均一販売を維持するためには、安価な仕入れ先の確保が至上命題となるわけだが、主な仕入先であった中国は、もはや安価な製品供給基地ではなくなりつつあるのが現実だ。

【次ページ】国産品に切り換えることで100円を維持する?

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