- 2023/01/20 掲載
焦点:ECBの気候変動対応、石油大手社債の売却が近道との分析も
ECBのシュナーベル専務理事は10日、ECBが保有する3450億ユーロの社債を入れ替え、環境に優しいグリーン企業の社債の比率を増やすことを検討するべきだと訴えた。ECBは本来、社債を新規購入する際にグリーン企業の比重を増やすはずだったが、インフレ退治のために新規購入を停止した上、償還分の再投資も近く減っていくためだとしている。
これを受けてECB理事会メンバーのウンシュ・ベルギー中銀総裁は早速、気候変動は政府が対処すべき問題だと反発。しかし金融市場ではECBの社債売却額を巡る推測が始まった。
シンクタンクのアンドロポセン・フィクスト・インカム・インスティテュート(AFII)は、ECBが炭素排出量上位25社までの社債483億ユーロ相当を売却するだけで、保有社債に関連する排出量を87%減らせるとの分析結果を示した。
25社の中にはシェル、トタルエナジーズ、レプソル、BPなどの石油・ガス企業が含まれる。AFIIの創設者Ulf Erlandsson氏は「ほんの数社に炭素排出が極度に集中している」と指摘した。
<反対論>
ECB保有社債に関連する炭素排出量を推計するのは難しい作業だが、AFIIは年間の二酸化炭素(CO2)排出量を総額約4億3800万トンと試算。イタリアないしフランスが2017年に排出した量を上回るとしている。
ECBは個別銘柄の保有額を開示していないため、AFIIの試算は、ECBが買い入れ適格社債を既発分の平均27%ずつ保有しているとの仮定に基づいている。
アナリストの間では、公益やエネルギーなど炭素排出量の大きい企業が発行した、いわゆる「ブラウン債」をECBが少しでも売却すれば市場にゆがみが生じるとの声も出ている。
S&Pグローバル・レーティングスの欧州・中東・アフリカ担当首席エコノミスト、シルベイン・ブロイヤー氏は、こうした売却は社債市場で「大規模な価格再設定」を引き起こし、市場の安定維持に集中するECBの姿勢に反すると指摘した。
もう1つの反対論として、現在は排出量が大きいが今後減らすことを見据え、そのための資金支援を必要としている企業を罰することになる、という主張もある。
この問題に対処するためECBは既に、企業の気候変動対策をスコア化する際、現在の成績だけでなく今後の目標や開示内容も勘案している。
ABNアムロの債券ストラテジスト、ラリッサ・デ・バロス・フリッツ氏は、ECBが少しでもブラウン債を売ってグリーン債を買えば、ECBは今後一切その社債を買わないとの認識から、売られた社債の利回りスプレッドは7─15ベーシスポイント拡大しかねないと予想した。
(Virginia Furness記者、Francesco Canepa記者)
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