- 2023/02/09 掲載
アングル:最終盤の日銀人事、岸田首相は内外の発信力重視 「国際派」に思惑
岸田首相は8日の衆院予算委員会で、日銀総裁人事に関して、リーマンショック後には主要国中央銀行トップの緊密な連携や内外の市場関係者への質の高い「発信力」と「受信力」が格段に重要になっているとし、「こうした点に十分配慮して人選を行っていきたい」と語った。
金融政策を分析・予想する日銀ウオッチャーの間では、次期総裁候補の中では「国際派」と言えば中曽宏・前日銀副総裁が筆頭格だ。
岸田首相の発言を受け、ある日銀審議委員の経験者は「次の総裁は中曽氏ではないか」と述べた。いちよし証券の愛宕伸康チーフエコノミストは「海外主要中銀との緊密な連携という下りは、リーマンショック当時、市場局で海外当局と頻繁にやりとりしていた中曽氏を連想させる」と指摘した。
中曽氏はリーマンショックが発生した2008年当時、日銀の金融市場局長として市場の混乱収拾に尽力した。その後も日銀理事として国際関係を統括。現在は東京国際金融機構の会長として、海外の投資マネーの日本への誘致に取り組んでいる。
今月2日、脱炭素への移行を支援する金融をテーマとしたセミナーで、中曽氏が自らアジア太平洋経済協力会議(APEC)のビジネス諮問委員会で金融問題を取り扱うタスクフォースの議長を務めることを明らかにしたことで、市場の一部では次期総裁就任の可能性が後退したとの見方が出ていたが、一転して就任の思惑が再燃した格好だ。
<情報発信に根強い批判>
総裁候補としては、中曽氏のほか、雨宮副総裁、山口広秀元副総裁などが有力な候補と見られている。
雨宮副総裁を巡っては、日本経済新聞が6日付で政府が次期総裁への就任を打診したと報道した。「雨宮氏は経済界のみならず、霞が関や国会への発信力も高い」(大和証券の岩下真理・チーフマーケットエコノミスト)との指摘が出ている。
しかし昨年12月、市場が織り込まない中で日銀が長期金利の変動幅拡大を決定したことを巡り、市場では「日銀の情報発信は最近特に悪い。雨宮氏も、副総裁としての任期切れが近いのに講演すらない」(邦銀)と厳しい声が聞かれる。
他方で、海外への発信力という面では、雨宮氏が総裁となり、国際関係に精通した氷見野良三前金融庁長官などが副総裁となれば、日銀として内外の情報発信力は確保可能との見方もある。
<債券市場は反応薄>
岸田首相の発言に債券市場は反応薄だった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介・債券ストラテジストは「雨宮氏の新総裁就任を織り込む市場の見方を覆すほどではなかった」と話す。
政府は来週、日銀の正副総裁人事を国会に提示する方向で調整している。岸田首相は8日、「金融市場に与える影響などについて細心の注意を払いつつ、いま人選しているところだ」と語った。
(和田崇彦 取材協力:竹本能文、木原麗花、梶本哲史 編集:橋本浩)
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