- 2023/03/02 掲載
アングル:封鎖されたロシア領空、中央アジア航空各社に商機
この1年間で、中央アジア上空を通ってアジアや中東と行き来する便が急増。この機に乗じようと、政府の支援を受けた新たな航空会社も誕生している。
航空機販売会社ジェットクラフト・コマーシャルのトップ、ラファエル・ハダド氏は「多くの人々が紛争地域から中央アジアに移動してきた。彼ら彼女らは言語的に中央アジアと近いため、今後もこの地域に飛んでくる便は増え、経済が活性化すると見込んでいる」と話した。
ロシア領空は、戦争直後から西側数十カ国に対して閉ざされている。
その結果、多くの欧州諸国とウズベキスタンを結ぶ航空便が2019年比で105.9%、昨年1月比で36%とそれぞれ増えたことが、ユーロコントロールのデータで明らかになっている。
カザフスタン航空当局によると、同国は1年間で航空便の乗客が16.5%増加。同国の航空大手エア・アスタナは昨年の税引き後利益が7840万ドルと過去最高を記録したと発表した。
アゼルバイジャンの各航空会社は、同国を経由する乗り継ぎ便が昨年134%増えたとしている。
ウズベキスタンでは、当局の支援で「シルク・アビア」、「エア・サマルカンド」という新たな航空会社2社が誕生した。
エア・サマルカンドはまだ、商業運航を開始していないものの、トルコ、アラブ首長国連合(UAE)、イスラエル、欧州などへの運航に注力したいとしている。
「これらスタートアップ企業の一部は、活力を増している市場への参入を狙う地元政府や地元ビジネスマンから支援を受けている」とハダド氏は語った。
<ロシアの航空会社は窮地>
ロシア領空の閉鎖以来、欧州航空各社はアジア便の新たな航路探しに奮闘してきた。一方、ロシアの航空各社は、今でも海外旅行熱の衰えない一部国民の需要に応えようとして壁にぶつかっている。
戦争前、ロシア航空最大手・アエロフロートは欧州各国の首都とタイ、中国、日本などアジア諸国をモスクワ経由で結ぶ路線で主力航空になるべく、英ブリティッシュ・エアウェイズや独ルフトハンザ、トルコのターキッシュ・エアラインズ、ドバイのエミレーツ航空などとしのぎを削っていた。
2016年には欧州・アジア路線で360万人を運び、一段の拡大を計画していたが、今ではそれどころではなくなった。
エイビエーション・ストラテジーのアナリスト、ジェームス・ハルステッド氏よると、ロシアの航空会社は設備が不足して航空機を保全することさえできない状態だという。「休暇に旅行に出かけたいという需要はまだあり、『スタン』諸国との航路は結ばれている。エア・アスタナのような航空会社にとっては、ロシア便を飛ばし、自国のハブを通じて(ロシアの航空会社にはできない)サービスを提供するチャンスだ」という。
これから中国人旅行者が戻って世界の旅客数が2019年水準に復帰するなら、中央アジアの航空会社は上昇軌道を続けられそうだ。
あるロシア航空業界筋は「2022年は中国が新型コロナウイルス封じ込めのための制限措置を採っていたため、乗客数はそこまで大きく伸びなかった。制限措置が解除されたことで、今後は伸びるだろう」と語った。
航空団体ACIヨーロッパのデータを見ると、アジアと中央アジアを結ぶ路線の乗客数は昨年来増えているが、2019年水準に比べるとなお20%ほど少ない。
ウクライナでの戦争が長引けば、ロシア人旅行客は欧州に代わる旅行先を探すため、中央アジア観光産業の商機はさらに広がるかもしれない。
ロシア旅行会社協会(ATOR)によると、ロシア国民による昨年の海外渡航は2300万回を超え、渡航先は142カ国に達した。主な渡航先はトルコ(520万回、2019年比25%減)、UAE(120万回、同21.2%減)、エジプト、タイなどだった。
「素敵な場所に旅行したり豪華なヨットを買ったりするのが好きな金持ちのロシア人は、その方法を探す必要が出てくる」とハルステッド氏。「『スタン』諸国には今後、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)を満足させる大きなスキーリゾートが現れ、高級店舗もそろうかもしれない。彼らは(フランスのリゾート地)ニースには行けなくなったからだ」と続けた。
(Joanna Plucinska記者、 Gleb Stolyarov記者)
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