焦点：金融市場混乱に「引き締め効果」、中銀の仕事を肩代わりか

［２１日　ロイタ─］ - 銀行セクターの混乱による金融環境の引き締まりによって、利上げに相当する効果がもたらされ、欧米の中央銀行は間もなく利上げサイクルを終了するかもしれない、との見方が浮上している。

米銀株は２週間足らずで約１６％も下落。弱小企業の借り入れコストは跳ね上がり、米金融企業の社債のリスクプレミアムは２０２０年５月以来で最高となった。

一部のエコノミストは、これらは米連邦準備理事会（ＦＲＢ）による数回の利上げに相当するとみており、投資家も利上げ観測を後退させている。

今月に入ってしばらくは、２１─２２日の米連邦公開市場委員会（ＦＯＭＣ）で５０ベ─シスポイント（ｂｐ）の利上げがあると予想されていたが、今では２５ｂｐの予想に変わっている。

欧州中央銀行（ＥＣＢ）のラガルド総裁は市場の混乱について、需要とインフレに水を差すようなら、ＥＣＢによる金融引き締めを一部肩代わりするかもしれない、との見方を示した。

米シリコンバレ─銀行の経営破綻とクレディ・スイス株の波乱を受けて、市場の資金調達環境は急激にタイト化した。

アポロ・グロ─バル・マネジメントの首席エコノミスト、トルステン・スロク氏は、市場の混乱による金融環境の引き締まりはＦＲＢによる１．５％ポイントの利上げに等しいと推計。短期金融市場や社債、株式の動きを反映するブル─ムバ─グ米国指数を引き合いに、「金融環境はＦＲＢが利上げを開始して以来で最も引き締まっている」と述べた。

金融環境のタイト化を示す兆候は豊富にある。

米ジャンク債の米国債に対する利回りスプレッドは９日以来、実に８８ｂｐも拡大した。

米銀株は約１６％下落。欧州銀行株は、ＵＢＳによるクレディ・スイスの救済合併で市場が反発した後でも９日比で１１％安いままだ。

銀行など金融企業が発行した社債のリスクプレミアムは、米国で５６ｂｐ、ユ─ロ圏で７６ｂｐ、それぞれ拡大した。

ゴ─ルドマン・サックスは、こうした動きと不確実性が相まって、ユ─ロ圏と英国の銀行貸し出し基準は大幅に厳格化されかねないとみている。もっとも、２００８年の金融危機や１１年のユ─ロ圏債務危機時ほどの厳しくはならないという。

ＡＢＮアムロのシニアエコノミスト、ビル・ディビニ─氏は「市場のボラティリティ─が今後数日から数週間で収まると想定しても、金融環境のタイト化はある程度残るだろう」と予想。「これが実体経済への貸し出し抑制という形でＦＲＢの引き締めをある程度肩代わりすると考えれば、追加利上げの必要性を減らしそうだ」と述べた。

ディビニ─氏は、ＦＲＢが年内に利下げに転じる可能性さえあると考えている。

一方、原油価格は９日以来９％下落。これも物価上昇を抑える要因となり、利上げの必要性を低下させるかもしれない。

＜当てずっぽう＞

ゴ─ルドマンは、銀行貸し出し基準の厳格化によって２０２３年の米経済成長率は０．２５─０．５％ポイント押し下げられ、ＦＲＢによる２５─５０ｂｐの追加利上げ効果に相当すると指摘。影響はもっと大きくなる可能性さえあるとしている。

ただ、流動性の低下によって市場の振れ幅が大きくなっている今の局面で、市場の指標を使って金融環境を測ることの妥当性を疑問視する声もある。

スイス・リ─のマクロ戦略責任者、パトリック・セ─ナ─氏は国債価格の乱高下に触れ、「金利の変動をもたらしているのはインフレと成長への懸念、そしてポジション解消なので、こうした動きは割り引いて考える必要がある」と言う。

セ─ナ─氏は、金融環境のタイト化は持続して初めて影響を及ぼすとし、中銀がインフレ退治の決意を維持することが、その前提になると述べた。

コンサルタント会社、ＴＳロンバ─ドのマネジングディレクタ─（グロ─バルマクロ担当）、ダリオ・パ─キンス氏は、最近の市場混乱がもたらす実質的な利上げ効果は「当てずっぽう」の域を出ないと指摘。「中銀はもはや、金融政策の本当の引き締め度合いをきちんと把握できていない」と述べた。

パ─キンス氏は、小規模な銀行が貸し出しを制限し、中小企業に大きな影響をもたらして総需要に打撃を及ぼすと予想。「これは当局のインフレ退治を助けるが、制御不能で扱いにくい作用によるものなので、不要な苦難をもたらすリスクがある」と語った。

（Yoruk Bahceli記者）