- 2023/04/20 掲載
楽天銀のIPO、親会社の財務状況に質問相次ぐ 価格決定過程で=関係者
[東京 20日 ロイター] - 21日に上場する楽天銀行が、公開価格の決定過程で海外の機関投資家から、親会社楽天グループの財務状況について相次ぎ説明を求められていたことが分かった。事情を知る関係者2人が明らかにした。楽天銀はグループ内取引の内容をリスク要因に追加し、最終的に価格を当初想定から約3割引き下げた。一方、割安感が出たことで海外投資家の申し込み倍率は15倍を超えた。
同関係者らによると、主幹事証券団が仮条件の価格レンジを探るため機関投資家に意見を聞いていたところ、携帯電話事業の不振で赤字が続く楽天Gの財務状況への質問が特に海外勢から相次いだ。うち1人によると、米国のある機関投資家は、同行の事業は「楽天経済圏」と密接につながっていることから、グループ内の取引の詳細を英文目論見書に開示するよう求めた。
同関係者によると、楽天銀は主幹事団と協議。グループ会社との取引をリスク事項として英文の目論見書に追加し、臨時報告書の添付文書として今月4日に関東財務局へ提出した。楽天カードのクレジットカード債権、楽天モバイルの通信料などの債権を裏付け資産とする信託受益権の保有残高を明記した。カード所有者の信用が悪化したり、携帯事業の契約者が減れば投資利益が減少する恐れがあるとしている。
楽天銀が新規株式公開(IPO)を決めたタイミングは、米銀2行の破綻などで市場環境がもともと悪化していた。関係者の1人は、とりわけ慎重な姿勢を強めていた米国の機関投資家は楽天Gの財務状況にも敏感だったと説明。「大幅なディスカウントが必要ということになった」と話す。
改定した目論見書を提出した翌日の5日、楽天銀は仮条件を1300─1400円に引き下げた。東証から上場承認された3月22日に公表した想定仮条件1630―1960円の約7割にとどまる水準で、13日にはその上限に当たる1400円で公開価格を決定した。時価総額は当初想定していた3000億円から2380億円に縮小した。 楽天Gは楽天銀行に問い合わせるようロイターに求め、楽天銀はロイターの取材にコメントを控えた。主幹事団を主導する大和証券は、楽天Gの財務状況に投資家からの質問が出たことは認めた上で、金融不安の広がりが直撃したタイミングで銀行セクターへの投資に踏み切れない投資家が多かったことから「安心して買いに入れる価格を提示した」と説明した。
楽天銀は3月末時点で口座数1300万超、預金残高9兆円超のインターネット銀行国内最大手。楽天Gのけん引役でもあることから、証券業界の引き受け関係者らはもう少し高い水準の価格を見込んでいた。
先行して上場した同業の住信SBIネット銀行の株価純資産倍率(PBR)が1.2倍程度だったのに対し、楽天銀の仮条件の下限は1倍割れとなった。DZHフィナンシャルリサーチの田中一実アナリストは、住信SBIネット銀の公開時の株価収益率(PER)と比較すると「1697円まで期待でき、想定仮条件の下限には引っかかる。必要以上にレンジを下げたことになる」と指摘する。
ただ、投資家の多くは、多少不利な価格設定になっても楽天Gは上場せざるを得ない状況にあったとみていた節がある。
楽天Gが3月末に提出した2022年度の有価証券報告書によると、24年までに償還の社債や劣後債が4000億円程度ある。携帯電話事業の先行投資でグループ全体の赤字が続く中、海外のヘッジファンドのポートフォリオマネジャーは、「IPOしないとだめだろうと投資家から足元を見られた」と指摘する。
楽天Gは4期連続で連結最終赤字を計上し、22年12月期の損失額は過去最大の3728億円だった。携帯電話事業の赤字は同年1ー3月期をピークに縮小傾向にあるが、格付投資情報センター(R&I)は今年3月、楽天Gの発行体格付けを「トリプルBプラス」へ格下げした。
楽天Gは楽天銀の上場に合わせて保有株の一部を売却し、717億円を調達して財務基盤を強化する。楽天証券のIPOも計画している。
一方、楽天銀のIPOは公開価格が大幅なディスカウントで設定された結果、割安感が広がった。大和証券によると、海外機関投資家向けの倍率は15倍超。最終的に海外分の販売を増額した。
楽天銀の仮条件設定後に住信SBI銀株が急伸したことで、実勢価格との乖離(かいり)はさらに拡大している。
(浦中美穂 編集:久保信博、デイビット・ドラン)
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