• 2023/04/27 掲載

インタビュー:バンクラン規制強化なら金融機能を制約=五味・元金融庁長官

ロイター

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山口貴也 梶本哲史

[東京 27日 ロイター] - 元金融庁長官でSBI新生銀行の五味広文会長は、現代的なデジタル・バンクラン(取り付け)に対処するため、当局が資本規制を強化すれば金融機能を制約することになると否定的な考えを示した。植田日銀発足に伴う金利先高観に関し、動きが緩やかなら運用環境の改善を通じて銀行本来の預貸業務が活発化するとの見方も示した。

ロイターとのインタビューで26日、語った。五味会長は、米シリコンバレー銀行(SVB)などの経営破綻を念頭に「バンクランにより、例えば預金では引き出しが想定されていたより早く、大量に起こり得ることが今回あらためて分かった」と指摘した。

もっとも、こうした動きに備えて銀行からの預金引き出しや海外送金を制限する資本規制に踏み切っても「他の抜け道ができるだけに過ぎない」と言及。「かえって銀行としての預貸業務という金融機能に大きな制約をかけることになる」と語った。

五味氏はインタビューで「日本も、1990年代後半に金融危機そのものは回避したが、融資方針が厳格化され、貸し渋りや貸しはがしが経済を衰退させた」との認識も示し、「銀行の連鎖破綻は止められたが経済全体に相当な後遺症が残り、今でもその影響が残る。スピードに対応するためだけの行動制限はあってはならない」と強調した。

<3月以降も燻る不安>

3月以降の危機対応については「中央銀行による潤沢な流動性の供給と、預金の全額保護を明確に打ち出す2つが危機管理の基本。米国もスイスも迅速に手を打ち、緊急応急措置としては迅速かつ完璧な対応だった」と、評価する考えを示した。

一方、五味会長は「危機はひとまず封じ込め、危機管理は成功したが、原因を究明して新たなリスク管理を構築していく必要がある」と指摘し、「市場もここを見極めている状況で、不安感そのものは拭えていない」と語った。

今後も「何かのきっかけで預金が流出したり、融資の絞り込みが過剰に行われたりすれば実体経済に影響が及びかねない」との懸念から、「状況に応じた金融協力は今後も必要で、G7(主要7カ国)の中央銀行や監督当局が連携を強化させていく必要がある」との考えも述べた。

<資本調達市場に汚点>

インタビューでは、クレディ・スイスのAT1債(劣後債)処理を巡り、「スイス政府が銀行監督当局を使って発した命令というのは、株の価値は残るが、債券の価値は無価値になるという不条理な内容だった」との見方も併せて述べた。

「クレディSのAT1債は各国とは異なり、そもそもが特殊な商品設計だったが、国があらかじめ作っていた法令ではなく、事が起こってから作った規則に基づく権限で無価値とした」としたうえで、「債券と株には優先劣後関係が当然ある。あらかじめ決められたルールではなく、あとから作ったルールでひっくり返して実行してしまうという手法は、二度とやってもらっては困る」とも語った。

五味会長は「資本調達市場に汚点を残したかたちで、日本の金融機関も含め、資本性の永久劣後ローンの調達コストが上がる可能性は当面の間、覚悟しなければいけない」との認識も示し、調達コストが上がるという直接的な現象面だけでなく「金融活動全体に下押し圧力がかかる要因にもなり得る」と指摘した。

<「国際仲裁」も選択肢>

五味会長は「不条理なやり方で相手国からの投資家に損害を与えることを当局が実行した」ことから、「スイス政府への訴訟も増えていくことが想定される」との見通しを示した。

一方、訴訟を巡って「ADR(裁判外紛争解決手続き)の一種である国際仲裁に対し、投資家が協力して訴えるやり方もある」との選択肢も示した。

日本とスイスが経済連携協定(EPA)を締結していることを挙げ、「EPAがあるなら互いの国の投資家をそれぞれ政府の責任で保護するという条項が入っている」とし、「投資契約上は当事者ではない政府が主体的に動くことができなくても、投資家をサポートするかたちで冷え込んだ心理を改善させることが出来れば、資本調達環境も元に戻っていくのではないか」と語った。

<緩やかなら融資活発化>

植田日銀発足に伴う金利先高観にも触れ、「低金利を続けても潜在成長率は上昇しない。緩やかに金利が上昇していけば日本の銀行界にとっては利益の上がりやすい環境が整えられる」とした。「その分融資行動も活発化できる効果がある」との認識も併せて述べた。

一方、五味会長は「急な金融引き締めは実体経済への影響が大きい」とし、「限度を超えた金利上昇は銀行の融資態度にも響くほか、債券の含み損が膨らむ要因になり得る」と語った。

政府・日銀が2013年に結んだ政策協定そのものは「(現時点でも)不自然なものだとは思わない」との考えも述べた。

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