- 2023/07/20 掲載
アングル:日銀、賃金の持続的上昇に高まる期待感 海外経済や消費が注目点
[東京 20日 ロイター] - 人手不足が続くことで、賃金上昇が継続するとの見方が日銀で強まりつつある。足元の原材料価格の下落で、値上げによる企業収益の厚みが増せば先行きの賃上げの原資になるはずだとの期待感がこうした見方をサポートしている。ただ、賃金上昇の持続性について、確信はまだ深まっていない。日銀内では、今秋以降の海外景気に加え、物価高の下でも底堅さを維持してきた国内消費の動向を確認する必要があるとの指摘が出ている。
<賃上げ持続へ好材料続々>
賃金上昇の持続への期待感を高める事例が相次いでいる。日銀が10日に開いた支長会議では、企業の人手不足感が一段と強まっているとの指摘が多くあった。一部の大企業による複数年にわたる賃上げの動きも、日銀では好意的に受け止められている。企業の価格転嫁が想定以上に続いていることも、持続的賃上げには好材料との受け止めが出ている。
帝国データバンクによれば、家庭用を中心とした飲食料品の今年の値上げは昨年の2万5768品目を上回り、7月に入って3万品目を突破した。
値上げが続く中で原材料価格が大幅に下がってきており、日銀によると、円ベースの輸入物価指数は6月に前年同月比マイナス11.3%となった。その分、企業収益にプラスの影響が及んでいる。
日銀では、人件費上昇分の価格転嫁は原材料価格に比べて難しいとの見方が出ている。ただ、原材料価格が大きく下落する中でも値上げを継続することで回復した企業収益の一部は、今後の賃上げの原資になるとの期待感がある。
足元の全国消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は前年同月比プラス3%台で推移。日銀は7月の金融政策決定会合で議論する「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で今年度のコアCPIの見通しを2%台に引き上げる公算が大きく、日銀では、来年の春闘でも物価高が考慮されるとの見方が根強い。
<海外経済急減速なら、マインド一変のリスク>
ただ、日銀内では持続的な賃上げが実現すると判断するのは時期尚早との声も目立つ。
10日の支店長会議で広島鉄也名古屋支店長は、人手不足が続く中で賃上げ継続の必要性の認識は広がっているものの、来年にかけて賃上げが続けられるかは「不確実性がけっこうある」と語った。大山慎介福岡支店長も「来年度の賃上げが既定路線だと断言する企業経営者はそこまで多くない」と指摘した。
では、何が確認できれば持続的な賃金上昇への確信度が高まるのか。注目が向かっているのは、先行きの海外経済や国内消費の動向だ。
今年度の日本企業の収益を占う上で、秋以降の米国や中国の景気動向が重要になってくる。大幅に利上げが実施される中でも、米国経済は底堅い推移を見せているが、昨年来の米連邦準備理事会(FRB)の大幅な利上げによる景気下押しがいずれ顕在化することへの警戒感は日銀内で根強い。ここに来て、中国経済悪化への警戒感も出てきた。
国内では、物価高が続く中でも、ペントアップ需要や賃上げで消費は底堅さを維持してきたが、消費者の節約志向も強まっており、民間エコノミストは消費者の「値上げ疲れ」を指摘し始めている。消費動向は企業の価格戦略にも影を落とすため、注目されている。
もっとも、海外経済と国内の消費とではリスク要因として濃淡がある。日銀では、夏季賞与なども支えとなって消費の回復はまだ続きそうだとの見方がある一方、海外経済については、大幅な減速が現実のものなれば国内企業の収益に逆風となるだけでなく、企業の値上げや賃上げ、家計の消費などへのマインドが一気に冷やされかねないとの声が聞かれる。警戒度としては海外経済の方が大きい。
日銀内では昨年来の物価高や価格・賃金を巡る企業行動の変化が長い目で見れば一時の特殊事例に過ぎず、2%物価目標の達成はなお遠いとの見方も根強い。
(和田崇彦 編集:石田仁志)
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