- 2023/07/24 掲載
焦点:物価高対策も事項要求、市況次第で歳出膨張 財政改革空転も
<特別枠に4兆円超>
新たな基準は、自民、公明両党との調整も踏まえて近く閣議了解する。基準に沿って各省庁からの予算要求を8月末に締め切り、予算編成作業に着手する。
ロイターが入手した概要によると、今回の予算要求基準でも既定予算の見直しに応じた「重要政策推進枠」を設ける。特別枠では、構造的賃上げの実現、官民連携による投資の拡大、少子化対策・こども政策の抜本強化を含む新しい資本主義の加速や、防衛力の抜本強化をはじめとする環境変化への対応を柱に、予算要求の上積みを容認する、としている。
各省庁の裁量で使える裁量的経費を原資に、4兆円超の特別枠を講じる枠組みは今回も変わらない。人件費などの義務的経費も含め、削減額に応じて特別枠への要求を認める手法を踏襲する。
歳出の見直しでは、国が地方自治体に配る地方交付税交付金や、年金・医療などの社会保障費を含め「聖域を設けることなく施策・制度を抜本的に見直す」ことも併せて明記し、メリハリの効いた予算編成をめざす姿を示す構えだ。
<予測不能な要求額>
もっとも多岐にわたる看板政策への要望が相次ぐことも予想され、特別枠以上に要求が膨れ上がる懸念は拭えない。
24年度の概算要求基準では、物価高騰対策などを含めた重要政策については「重要政策推進枠や事項のみの要求も含め、適切に要求・要望を行い、予算編成過程において検討」するとし、歳出の目安を設けていない。
さらに、児童手当拡充を柱とする「こども・子育て支援加速化プラン」に関しても「内容の具体化の取り扱いについて、予算編成改定において検討」するとしており、思惑通りに歳出を絞り込めるかは微妙だ。予算基準の決定に先立ち、政権与党からは「政策の選択肢を狭めるような財政運営があってはならない」(中堅幹部)との声が漏れる。
防衛力強化に伴う対象経費も「所要の額を要求」すると増額不可避の情勢で、一般会計の要求総額は10年連続の100兆円超えが避けられそうにない。
<信認維持へ正念場>
政府は、赤字続きの基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を2025年度に黒字転換させる財政目標を掲げており、24年度予算をどう編成するかは目標達成の成否に直結しかねない。要求を丸のみすれば歳出がさらに膨らみ、目標そのものの立て直しが必要になる。
鈴木俊一財務相は21日の閣議後会見で、近く決定する概算要求基準について「担当部局で調整を進めている段階で、具体的内容は話せない」と断ったうえで、「事項要求が増えることが必ずしも予算の膨張につながるわけではない」と強調した。
ただ、反転の兆しのみえない為替円安などの市況次第では政権与党などから家計負担の軽減策を求める声が強まりそうだ。エネルギー関連の補助金が9月末に終了するのに先立ち、与党内では「物価高への備えは必要」(別の中堅幹部)との声がある。
峠を越した世界的なインフレ対応とは裏腹に、野放図な財政運営を続ければ、日本国債の信認低下を通じて民間金融機関の調達コストに跳ね返り、かえって景気を冷やす懸念もある。
(山口貴也 編集:石田仁志)
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