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  • インタビュー:日銀修正で急激な円安リスク低下、長期金利1%想定せず=野村総研 木内氏

  • 2023/08/02 掲載

インタビュー:日銀修正で急激な円安リスク低下、長期金利1%想定せず=野村総研 木内氏

ロイター

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[東京 2日 ロイター] - 野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストで元日銀審議委員の木内登英氏は、日銀の先週の政策修正について、市場を大きく混乱させることなくイールドカーブ・コントロール(YCC)の副作用を減らすことができたと評価した。今回の措置の狙いのひとつに為替市場が念頭にあったとしたうえで、今後は急激な円安のリスクは小さくなり、昨年秋につけた151円の再現は難しいと予想した。

日銀が新たに上限とした1%の長期金利の水準に関しては、投機的に近づくようなら日銀は力づくで抑えることになるとして、短期的には達しないとみている。

日銀の金融政策についは、物価目標が達成可能かどうかは、最短では来年の春闘を受けて判断するのではないか、と語った。想定ほど賃金が上がらない場合、多角的レビューなどの結果も示しながら副作用対策を正当化しつつ、前もって市場に政策修正を織り込ませる、との見通しを述べた。

マイナス金利の解除は、経済が安定していれば来年後半にも実施できるだろうが、経済が減速して円高になるようなら、再来年などに後ずれする可能性がある、とした。

インタビューの詳細は以下の通り。

──YCCの運用柔軟化について、どういう受け止めか。

「長期金利がYCCの上限に張り付いた際、日銀が大量の国債を買わなければならなくなる副作用が大きな問題だったが、今回の柔軟化でそのようなリスクはかなり抑えられるだろう。一方、これまでのところ、金融市場への悪影響は小さい。市場を大きく混乱させずに副作用を減らすことができた点は評価できる」

――市場の反応をどう見るか。

「市場影響が小さかったのは、今回の措置が政策修正につながっていくものではないとの日銀のメッセージが、市場に理解されたためだろう。昨年12月のYCCの変動幅変更の際は、その後のマイナス金利の解除や、総裁交代後の急速な政策見直しへの思惑を招き、為替や株への影響が大きくなった。今回は、24―25年にかけて2%を下回る物価見通しを改めて示した。政策修正は2%の物価目標の達成後と説明しており、今の時点で直ちに政策修正につながることはないだろうと、市場は納得した」

「基本的には出尽くし感から、円安や株高となった。この数カ月間、日銀の政策修正による円高圧力や、それによる株安が警戒されていたが、これをひとまず通過した。YCC撤廃の観測まであったことを踏まえると、さして大きな修正ではなかったとの側面もある。金利が大きな動きにならず、為替市場や株式市場では安心感につながった」

「今回の措置の狙いのひとつは為替だろう。YCCを厳格に運用する中で、米長期金利が上昇する局面で日米金利差が開いて円安が進み、それによる物価上昇への国民からの批判を避けたい考えがあるのだろう。米金利に合わせて日本の金利もある程度動けるようになり、円高、円安の双方向でボラティリティを下げる方向に働く」

――長期金利が1%に達するタイミングや条件はどの様にみるか。

「短期的には1%には達しないとみている。経済が強くなり、インフレ期待とともに長期金利が上昇する場合は容認され、1%に達する局面があるかも知れないが、投機的に1%に近づくようなら、日銀は力づくで抑えることになる。日銀は物価目標が達成できないと見通している。その通りなら、インフレ率も賃金上昇率もゆっくり冷えていく方向となる。米政策金利はピーク圏にある。景気減速や利下げの観測が出ると米長期金利は下がるため、日本の長期金利も下がりやすくなる」

――為替や株価への作用はどうか。

「為替市場のボラティリティは下がり、急激な円安のリスクは小さくなる。昨年につけた151円の円安の再現は難しいだろう。当時は今より米インフレの伸び率がかなり高く、利上げがどれほど続くか不透明な状況だった。足元で米連邦準備理事会(FRB)も欧州中央銀行(ECB)も利上げの最終局面とみられており、米長期金利が大幅に上昇するのは難しい。一方、日銀のYCC運用柔軟化による円安だけでは、株高はさほど長くは続かない。米国株の上昇が続き、米経済がソフトランディングするとの楽観論が強まると円安になりやすく、日本株も押し上げられるだろう」

「5―6月の日本株高はやや異常だった。当時は、米株の調整リスクや中国の景気失速リスクがあり、代わりに日本株が買われていた。足元では米国では経済軟着陸の楽観論が出ており、リスク回避の受け皿として日本株に資金が集まる環境ではない。日本株は従来のように、ある程度、米株に連動した動きになるだろう」

――今後の日銀の政策修正の行方はどの様にみるか。

「副作用を減らす政策修正は望ましい。日銀は2%の物価目標を掲げるが、2%という数字にもともと根拠はない。いまの日本経済にとって、物価はかなり上振れており、経済にはマイナスだ。本格的な政策修正にも、早期に踏み出すべきだ」

「日銀としては、手を打ったことで当面は大丈夫と考えるだろう。金利が上がらなければ、しばらく何もしないのではないか。長期金利が1%に上昇し、追加修正が必要になれば、上限引き上げや撤廃を通じ、YCCの形骸化をさらに進めるのではないか。本格的な政策修正は、2%の物価目標が達成できるかを見極めてからとしており、まだ時間がかかりそうだ。物価目標2%は維持しつつも、短期的に達成が難しいと判断するなら、緩和の長期化による副作用を減らすような修正が必要になる。今回のYCC柔軟化と同様のロジックだ」

「短期的に物価目標が達成可能かどうかは、最短では来年の春闘を受けて判断するのではないか。想定ほど賃金が上がらない場合、多角的レビューなどの結果も示しながら副作用対策を正当化しつつ、今回とは違い、前もって市場に政策修正を織り込ませるだろう。修正実施の時間軸は、世界経済の状況などが左右する。マイナス金利の解除は、経済が安定していれば来年後半にも実施できるだろうが、経済が減速して円高になるなら、再来年などに後ずれする可能性がある」

*インタビューは1日に行いました。

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