- 2025/05/13 掲載
アングル:米中貿易戦争「休戦」、市場はいったん好感 不確実性警戒は消えず
[ロンドン/上海/ニューヨーク 12日 ロイター] - 米中両国が貿易戦争の「休戦」に合意したことを受け、12日は世界的に株価とドルが上昇した。ただ投資家の間では、最終的な通商合意に向けた道のりはまだ長く、世界経済減速のリスクは消えていないとの見方が根強い。
ジュネーブで貿易協議を行った米中は、双方が高関税適用を90日間停止し、それぞれ関税率を115%引き下げるとの共同声明を12日に発表した。これにより14日から米国の対中追加関税は30%、中国の対米報復関税は一部を除いて10%となる。
この結果、ドルは主要通貨バスケットに対して1%超値上がりし、米国株もS&P総合500種が3.3%高、ナスダック総合は4%超高で引けた。
一方投資家のリスク回避姿勢が弱まったため、安全資産とされる米10年国債が売られ、利回りは4.48%と約1カ月ぶりの高水準になった。
投資家の不安心理の度合いを示すボラティリティー・インデックス(VIX、恐怖指数)は3月下旬以降で初めて20を下回った。
パレオ・レオンのマネジングディレクター、ジョン・ブラビーン氏は「こうした(リスク資産値上がりの)動きは100%を上回る高関税の最悪シナリオが現実化しそうにないという安心感に基づく上昇(リリーフラリー)だ。関税はゼロにならないとしても、最悪事態が起きる公算は乏しい。われわれは瀬戸際から戻ってきた」と説明した。
もっとも警戒感が払拭されたわけではない。米中がより恒久的な合意をこれから締結する必要があり、まだ相対的に高い関税が世界経済を圧迫する恐れが残っているためだ。
深セン龍太平洋資本管理のチャールズ・ワン会長は、長期的な明るさには90日間の不確実性という但し書きがつくと指摘した。
ステート・ストリート・グローバル・マーケッツのマイケル・メトカルフ氏は、12日の関税引き下げ合意で平均実効関税率は15%になると試算。「これまで想定されていた水準を踏まえれば、差し引きでプラスの材料になる」と一定の評価を示す。
しかしブランディワイン・グローバルのポートフォリオマネジャー、パトリック・ケイザー氏は「企業が支出に関する決定を下すのはなお難しい。市場はリスクがなくなったように行動しているが、多くの企業がそのような状況だとみなすとは思わない」とくぎを刺した。
<トランプ以前には戻れず>
投資家が目にしてきたのは、経済指標が悪化し、中央銀行当局者から成長が鈍化して物価は上振れつつあると警告が発せられる中で、トランプ米大統領が通商戦略を見直そうとしている可能性だ。
米国が進めている各国との貿易交渉でも、先週の英国との合意や、日本、ベトナム、韓国などとの前向きな話が出てくることで、市場の先行きに対する見方も改善してきた。
エドワード・ジョーンズのシニア投資ストラテジスト、アンジェロ・クーカファス氏は「4月初め以降、貿易面の不確実性後退が株式市場のボラティリティー低下につながり、それが金融環境の緩和とリスク心理の回復をもたらしている」と述べた。
ラボバンクのFX戦略責任者を務めるジェーン・フォーリー氏も、関税措置は多くの人々が恐れていたほど壊滅的な問題ではないかもしれないという楽観論が広がっているのは確かだと認める。
それでもフォーリー氏は、だからと言って事態が第2次トランプ政権誕生より前に戻るという意味ではないと警告。「関税が結局どの水準に落ち着き、世界の経済成長や中央銀行の政策にどう影響するのかについて、依然として多大な不確実性が存在する」と強調した。
ステート・ストリートのメトカルフ氏は、心配の種が貿易から別の問題に移行する展開もあり得るとみている。例えば多くの投資家が懸念するのは、特に関税収入が減少した場合、トランプ氏が計画している減税が米国の債務レベルに悪影響を及ぼすのではないかという点だ。
メトカルフ氏は、今回の米中合意でトランプ氏の政策を巡る不確実性がなくなったわけではなく、新たな分野に移動するだけだと解説した。
PR
PR
PR