• 2025/07/15 掲載

情報BOX:トランプ氏主張の政策金利1%、なぜ「危険な処方箋」なのか

ロイター

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Howard Schneider

[ワシントン  14日 ロイター] - トランプ米大統領は、米連邦準備理事会(FRB)が政策金利を1%へ大幅に引き下げることで政府の借り入れコストを減らし、自身が推し進める税制・歳出法案による財政赤字の増大をまかなえるようにすべきだと訴えている。

政策金利が1%というのは、米国が投資先として「最も魅惑的」な国であることを意味するとトランプ氏は言っているが、そうではない。この金利水準が取られるのは、深刻な問題を抱えている経済への危機対応の際だ。

米国経済は現在そのような問題を抱えているわけではない。ほぼ完全雇用を達成し、経済成長も続き、インフレ率がFRB目標の2%を上回っている中で、トランプ氏の要求が実現しても、FRBが政治的圧力に屈し、間違った理由で利下げしたと米国債市場がみなせば、たちまちしっぺ返しを受ける可能性がある。

議会はFRBに対して物価安定化と雇用最大化の使命を果たすように命じており、赤字国債を安売りするようなことは求めていない。さらに現在のような状況で大幅に利下げすればインフレを再燃させかねない。

EYパルテノンのチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は、仮にFRBが明日、1%への利下げを決めたとしても、長期金利に従来のような影響を与えるかは疑問とし、「債券市場が恐れているのはインフレが再燃すること、事実上FRBの独立性が失われ、インフレ期待がつなぎ留められなくなることだ」と述べた。現在4.1%の失業率、2%前後の経済成長率、2.5%程度のインフレ率を踏まえると、現行4.25―4.50%の政策金利を「緩和する余地」はあっても、トランプ氏が求める大幅利下げを実現できる余地はないと指摘した。

<1%は正常なのか?>

1%の政策金利は、過去四半世紀に何度かあった。ただし、失業率が6%以上だった、いわゆる不況下でのことだ。

政策金利が1%だった時期の1つはブッシュ(子)政権下の2003年で、米国がイラクに侵攻した直後。ITバブル崩壊と01年9月11日の米同時多発攻撃に伴うFRBの利下げ局面が終了した時期だった。またオバマ元大統領が09年1月に就任した際も、金融危機の影響で政策金利はゼロ近傍だった。

第1次トランプ政権の終盤でも新型コロナウイルス流行で経済が停止し、政策金利はゼロ近くに設定されていた。

<供給と需要とリスク>

米国債の供給は、大統領と議会が定める歳出と税の水準によって決まる。連邦政府は通常、1年間に税収や他の収入を上回る支出をしており、財務省はその赤字を借入金で賄う。その借金は国債発行で賄い、満期は30日から30年まである。

前提条件が同じならば、財政赤字と累積債務が大きければ大きいほど金利は高くなる。トランプ氏肝いりの税制・歳出法案が7月に議会で可決され、トランプ氏が署名して成立したことで米国の赤字と債務は増加すると予想されている。

需要サイドでは、米国は供給が豊富で、市場がうまく機能し、強固な制度と法規範を築いた歴史を背景に、リスクが比較的小さい投資先だと引き続きみなされている。このため、政府の借り入れコストを抑えられる特権的な地位を享受している。現在の4%を超える金利は、大規模な年金基金や、投資の安全性を確保しながら収入を得たい退職者にとってはとりわけ魅力的だ。

しかし、他の借り手と同じように、投資家が負うリスクに対して米政府はプレミアムを支払わなければならない。例えば10年物米国債に資金を回すことは、他への投資機会を放棄することを意味する。金利、インフレ率、経済成長は米国債を保有している間に変化する可能性があり、投資家はそうしたリスクに対する補償を支払うように求める。

FRBの政策金利を出発点とし、そうした全ての要素が「期間プレミアム」という形で積み上げられる。

国の制度に対する信頼のような無形資産も重要だ。トランプ氏が今年4月にFRBのパウエル議長を解任すると脅した際には利回りが上昇し、トランプ氏はいったん撤回した。

<FRB政策は適切ではないのか?>

トランプ氏は最近、パウエル氏に対して手書きのメモを送った。そこには中央銀行の政策金利の一覧が載っており、トランプ氏は金利が最も低い部分の近くにFRBが政策金利を設定すべき水準だと書き込んだ。

FRBの政策担当者らは、トランプ氏が既に多くの貿易相手国に課し、今後もさらに適用する予定となっている輸入関税がインフレを刺激しないことが明確になるまで利下げをするのは危険だとの見解を示している。

中銀の政策担当者らは、政策金利の適切性を示すためにインフレ目標や、予測される経済データと関連付けることが多い。

トランプ氏が望む1%の政策金利が適切であることを示唆するものは全くない。

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