- 2025/08/09 掲載
アングル:米関税50%の衝撃、インド衣料業界が迫られる究極の選択
[ムンバイ/チェンナイ 7日 ロイター] - トランプ米大統領がインドに合計50%の高関税を突きつけて以来、インドの衣料品メーカー、パール・グローバルには深夜にパニックの電話が殺到している。
「関税のコストを分担するか、さもなければ生産をインドから外国に移転するか」。アパレル大手ギャップや百貨店大手コールズなど米国の大手小売りが取引先の同社は、顧客から究極の選択を迫られている。
パール社はバングラデシュ、インドネシア、ベトナム、グアテマラにある17の工場に生産を移してインドへの関税を回避することを提案した。「既に全ての顧客から電話があった。インドから他の国々に生産を移すことを求めてくる」と、マネジングディレクターのパラブ・バネルジー氏は話す。
トランプ氏が4月に発表した最初の関税案は、インドに対する税率が競合するアジアの衣料品生産拠点であるバングラデシュ、ベトナム、中国よりも低かった。160億ドル規模のインド衣料品輸出市場に急拡大の好機が訪れたとみられていた。
しかし、インドと米国の関係が悪化したことで状況は逆転。インドは現在、計50%の関税に直面している一方、バングラデシュとベトナムは20%、中国は30%だ。
パール社は売上高の約半分を米国向けが占める。一部の顧客は、パールが関税の負担を分担すればインドからの製品輸入を継続する意向を示したが、それは現実的ではないとバネルジー氏は語った。
<沈滞ムード>
米国は7日にインドに対する25%の「相互関税」を発動したのに加え、同国がロシア産原油を購入していることへのペナルティとして28日から25%の追加関税を導入すると表明した。衣料品を輸入する米国の企業とインドのサプライヤーは、計50%の関税に驚がくした。
インド企業は製造拠点をエチオピアやネパールなど、まだ成熟していない衣料品生産拠点に移すことも視野に入れ始めた。一部の輸出業者は、米顧客から注文を保留したいと告げられたという。
インドの衣料品業界は既に人手不足と生産能力の限界に直面していた。しかし、輸出業者が国外に生産拠点を移すとなれば、それもまたモディ首相の製造業振興政策「メイク・イン・インディア」にとって打撃となる。
パール社は自社の海外工場を利用して米顧客の注文に応じることが可能だが、国内工場に依存する輸出業者ははるかに大きな打撃を被るだろう。
リチャコ・エクスポーツ社は今年、アパレル企業J・クルー・グループなど米国の顧客向けに1億1100万ドル相当の衣料品を輸出したが、これらは20を超えるインド工場で製造したものだ。
同社のゼネラルマネジャー、ディネシュ・ラヘジャ氏は売上高の約95%を米国市場が占めると説明。「(ネパールの首都)カトマンズでの製造拠点設立を模索している。業界は沈滞ムードだ」と嘆いた。
<まだ糸を買っていないなら>
インド最大の宝飾品・時計メーカーであるタイタンはロイターに対し、対米輸出で低い関税率を維持するため、一部の製造を中東へ移転することを検討していると明かした。
インド最大の衣料品メーカー、レイモンドの財務責任者、アミット・アガルワル氏は、エチオピアにある自社工場に期待を寄せる。米国の顧客からの注文に応じるため、3カ月以内に同国に生産ラインを追加する可能性があると明らかにした。エチオピアに対する米関税率は10%だ。
小売り大手ウォルマートなど衣料品を輸入する米国の企業にとって、インドは政治危機に直面するバングラデシュに代わる重要な輸入先に浮上していた。各社は中国からのサプライチェーン(供給網)の分散を模索している。
インド南部にある衣料品の生産拠点ティルプルは、同国のニットウェア生産の中心地。衣料品輸出の約3分の1を占める。今年初めにロイターが同地を訪れた際、輸出業者は将来に楽観的だった。
しかし、今はパニックに見舞われている。
コットン・ブロッサム・インディア社の執行役員、ナビーン・マイケル・ジョン氏によると、ティルプルの一部工場は顧客から注文の保留を求められており、50%の関税が完全適用される前に可能な限り多くの商品を輸出しようとしている工場もある。
「まだ糸を購入していないなら注文を当面保留してほしい」。下着を注文していた輸入業者からこんな相談があったという。
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