• 2025/08/18 掲載

焦点:ジャクソンホールに臨むパウエル議長、インフレと雇用の板挟み

ロイター

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Howard Schneider

[ワシントン 18日 ロイター] - パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、ワイオミング州で開かれる年次経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」を利用して、物価高騰に見舞われた2022年には厳格なインフレ対策を約束した。また、失業率が上昇傾向にあった昨年は、金利引き下げを示唆して雇用市場を守ろうとした。

来年5月に任期満了を控えるパウエル氏は22日にジャクソンホール会議で講演するが、入ってくる情報が同氏の「データ次第」という戦略を両方向に引き裂く中、2つのアプローチのどちらを取るかという選択を迫られることになる。インフレ率上昇と失業率上昇のどちらがより大きなリスクなのか政策当局者の間でも意見は分かれている。投資家とトランプ政権はFRBが9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げに踏み切ることを強く期待している。

しかし、ある指標では景気減速が示される一方、物価上昇の兆候が見られつつも経済の堅調さを示す指標もある中、利下げが実施されるかどうかよりも、パウエル氏が次のステップをどう考えるかという方が重要かもしれない。パウエル氏は必要な時には強硬に方向転換してきたが、今はまだ物価安定と低失業率というFRBの2つの目標の間で板挟みになっているのかもしれない。

元FRB副議長で現在はPIMCOの世界経済アドバイザーであるリチャード・クラリダ氏は「私が知っているパウエル氏は、データに依存する主義で、必要となるまでは決断を下さない人物だ」と言う。「もし9月にFRBが利下げに踏み切れば、コミュニケーションの仕方を巡って活発な議論が行われるだろう。何を伝えるのか?これ(利下げ)は1回限りなのか?それとも5回、6回のうちの1回目なのか?仮に利下げに踏み切ったとしても、そのコミュニケーションは難題となるだろう」と指摘した。

パウエル氏の講演は、積極的な政策発動につながった新型コロナの大流行、その後の大幅利上げをもたらしたインフレ率の高騰、そしてトランプ大統領からの絶え間ない個人的な侮辱に彩られた激動の8年間を締めくくるものとなる。

パウエル氏は22年の演説で、故ポール・ボルカー元FRB議長を体現する形で、雇用と成長にどのような代償を払おうともインフレを阻止すると誓った。今回はボルカー氏の後継者であるアラン・グリーンスパン氏を体現し、インフレリスクの兆候の先を見据えて政策金利を4.25─4.5%から「中立」と見なされる3%程度に近づけるよう圧力がかかっている。

<「データ次第」は適切か>

インフレ率は現在も目標を約1%ポイント上回っており、さらに上昇する可能性もあるが、トランプ政権は物価上昇の持続リスクは小さく、規制緩和とそれが誘発する生産性の上昇によって相殺されると主張している。

ベセント財務長官は最近、FRBはデータを重視するが、インフレ後退が確認できるまで待つことになるため、誤ったアプローチだと指摘。その上で、グリーンスパン元議長が1990年代に取った政策について、物価上昇の先を見据えて同僚からの利上げ要請を一蹴し、インフレ緩和につながる生産性上昇を考慮に入れた「非常に先見的な」アプローチだったと称賛した。

トランプ大統領がパウエル氏の後継者候補として検討しているとされるウォラーFRB理事も、関税上昇によるインフレリスクの先に目を向けるべきだと主張。FRB当局者の多くは行動する前により確定的な情報が必要と考えているが、ウォラー氏は雇用市場の低迷に備えて直ちに利下げが必要との見方を示している。

確定的な情報が必要と考えるグループには、今のところパウエル氏も含まれている。パウエル氏は就任早々、データに基づいて決定を行い、経済モデルや予測に過度に影響されないようにする意向を表明。データを鑑みて必要と考えれば迅速に措置を取るが、FRBが活用しているフレームワークに基づき、基本的には慎重に行動するというアプローチだ。

このアプローチは早まった政策転換を避けるという点では有益だが、FRBの措置が経済に影響を与えるまでに時間がかかることや、過去のデータ修正によってシグナルが変わる可能性があり、政策対応が遅れるリスクもある。最近の例では、労働統計局が5月と6月の雇用者数の増加幅を大幅に下方修正したことが記憶に新しい。

<霧は晴れたか?>

経済成長率がおそらく1%前後まで低下している中、ベセント氏を含む政府高官は、経済データは昨年9月よりも現在の方が弱く見えると指摘している。パウエル氏はこの時、ジャクソンホール会議での講演で表明した「労働市場を支えるためにできることは何でもする」という約束に従い、0.50%の利下げを行った。

政権と一部のFRB担当者は、経済が悪化しているのになぜ利下げしないのかという矛盾を感じている。 また「データ依存」と、関税引き上げのような当時未発表の政策変更がインフレにどのような影響を与えるかという将来の懸念を理由に利下げを停止するという決定との間に対立があると指摘する声もある。

トランプ大統領が最終的に提案した関税率は予想をはるかに上回る水準だったが、経済への影響はエコノミストたちが予想したほどには壊滅的ではないとみられており、ウォラー氏を含むFRB当局者らは最近、将来についてより強固な立場に戻ったと感じている。リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は先週、「霧は晴れつつある」と発言した。

FRBが利下げした上で今後の持続的な緩和を示唆するのか、追加緩和は約束せずに利下げを行うのか、それともさらなるデータを待って利下げを見送るのか、その判断はパウエル氏にかかっている。

雇用や経済成長は振るわないかもしれないが、状況は1年前とは異なっている。金利は低下しており、そのため景気への制約は既に緩和されている。株式市場は活況を呈し、失業率は安定、FRBが昨年利下げを行ったときには毎月低下していたインフレ率もほぼ横ばいで、最近では上昇に転じている。

ウォラー氏ですらこう語っている。低成長は「金融政策を中立に近づける」根拠だが、インフレや雇用市場の弱さについて自身の認識が誤っていれば「1回かそれ以上の会合で政策を据え置くという選択肢もある」と。

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