• 2025/08/27 掲載

焦点:FRBに迫る信認と独立の危機、問われる中銀の有効性

ロイター

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Howard Schneider

[ワシントン 26日 ロイター] - ワイオミング州で開かれた今年の経済シンポジウム・ジャクソンホール会合。カリフォルニア大学バークレー校のエミ・ナカムラ教授は、2021年のインフレ高進局面での米連邦準備理事会(FRB)の対応について、この事例がFRBの信認に価値があり、信認が損なわれれば大きなリスクであることを示唆すると論文で指摘した。トランプ大統領が25日、米国史上で初めてFRBのリサ・クック理事の解任を表明したことで、こうしたリスクはもはや机上の話でなくなった。

21年のインフレ高進に対しFRBの引き締め対応は遅れたと指摘されている。しかし当時のインフレ期待指標は物価が落ち着くとの見方を示していた。また米国債市場は利上げを開始するかなり前からそれを織り込み始めたため、引き締めは比較的容易に、コストをかけずにすんだ。

ナカムラ氏は「FRBが7―8%のインフレ率を予測しても長期的なインフレ期待をほぼ完全に安定させ続けたのがどれだけ驚異的なことか忘れてはならない。これは極めて強力な信認が必要だ」と述べた。そのような信認は中央銀行の独立性や長年の強固な実績に依存し構築に長い時間を要するが崩れるのは簡単だと指摘した。

トランプ氏のクック氏解任表明について、政策決定や市場の織り込みにどの程度の時間を要するかは分からないが、FRBの信認低下の種がまかれてしまったと識者は指摘する。

カリフォルニア大学バークレー校の経済学名誉教授で国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストのモーリス・オブストフェルド氏は「FRBの独立機関としての有効性、物価安定の使命を達成するための基盤に対する大規模な攻撃だ」と指摘し、「FRBがインフレ期待を不安定化させないで雇用を最大化させるというもう1つの重要な責務を達成するのも難しくなるだろう」と述べた。「市場は金融政策が政治的な動機で決定されると考え、FRBが巨額の財政赤字の資金手当てなど政権のその他の目標により重きを置くとみなされるだろう」と語った。

トランプ氏は巨額の財政赤字の穴埋めするための資金調達コストが下がると考えて政策金利の引き下げを主張している。こうした考え方はもしも市場がインフレ抑制に対する信頼を失えば、米国債の利回りに大幅なインフレ・プレミアムを上乗せすることになり、全く失敗する可能性がある。

<「大統領に権限ない」>

FRBは議会が1930年代に実施した一連の改革で現在の姿として確立されて以来、強い意志を持った大統領からその信認と独立性の回復力をこれほどまでに試されたのは初めてだ。歴史家たちは改革を議会が金融政策をホワイトハウスの支配から切り離すことを目的とした明らかな動きだと述べている。

この仕組みの重要な特徴として、ワシントンを拠点とするFRB理事の14年間の任期、米政府の他の部分の連邦構造を反映した理事会と12の地区連邦準備銀行総裁の間の権限分担などがある。選挙で選ばれた政府高官らは選挙結果よりもデータや分析を優先した独立した専門家に比べて、時としてインフレ抑制に必要だが厳しくて不評を買うような決定がなかなかできないという考えに根ざしているのだ。

こうした仕組みはまたトランプ氏と大統領権限の拡張を掲げるトランプ政権の考え方に不満の種となってきた。トランプ氏は1月の大統領復帰以来、FRBに利下げを迫る試みに失敗しており、25日にクック氏が理事就任の前に組んだ住宅ローン2件を巡る不正疑惑を理由に「彼女を解任する根拠がある」と述べた。

クック氏はFRB理事に就任した初の黒人女性でもあり、支援者らは彼女の任期がバイデン前大統領指名の他の理事2人と同様に、トランプ氏の任期をはるかにしのぐ2038年まで続くと指摘する。トランプ氏が25年5月のパウエル議長の任期終了後に新たなFRB議長を指名できても、少なくともトランプ氏が任期を迎える28年までは自らの任命者が理事会の過半を占めることはなさそうであり、FRBを再編しようとする同氏の試みを実現する上で妨げとなる。

さらには理事会と別に雇われる地区連銀総裁が政策決定に関与するため、議会の審査を通過したFRBの理事がホワイトハウスの要求に従うだろうという保証は全くない。

クック氏の住宅ローン問題は司法省に回されたが今までのところ正式な措置は取られていない。クック氏は25日夜の声明でトランプ氏に「法的根拠は存在せず、解任の権限がない」と述べた。

<世界が固唾>

今後の動きはFRBの金融政策に関する独立性がむしろこれまで慣例や政治的な約束事といった問題であったのか、あるいは実際に法的に守られているのかどうかを試す重要な事例となる可能性がある。FRB理事の人事を承認する米上院は与野党議員とも概して中央銀行の独立性を強力に支持している。

連邦準備法は「正当な理由」があれば理事を解任できると定めているが、具体的に何を指し示しているのか明確にしようとしていない。コロンビア大学のキャスリン・ジャッジ教授は「FRBの独立性を守るために正式な法的規定に頼ったことがなかったため法の整備が不十分だ」と述べた。

金融政策に関する独立性が米国とFRBを安定した影響力を持つ世界的な金融構造の中心軸とみなしている世界の金融市場にとって、どのくらい重要であるかどうかを試す重要な事例になり得る。

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