- 2020/09/07 掲載
アングル:独り勝ちテスラ株、国内メーカーは成長シナリオで見劣り
[東京 7日 ロイター] - 米テスラ
<コロナ禍でもテスラ健闘>
投資のかかる次世代車で単独での勝ち残りがいかに厳しいか──。ある市場関係者はそう指摘し、ホンダ<7267.T>を慮った。同社は3日、米ゼネラル・モーターズ
EVで先行するテスラの株価は7月1日、終値ベースの時価総額は2076億ドル(約22兆3000億円)とトヨタ自動車<7203.T>の時価総額(21兆7185億円)を突破。勢いは衰えず、約2週間後の13日には日本車メーカー9社合計(34兆4705億円)をも上回り、その後は一時40兆円を超えた。
ヘッジファンドなどによるショートカバー、S&P総合500<.SPX>構成銘柄への新規採用期待などを見込んだ買いが背景の1つとされた。緩和マネーによる「バブル」との見方がある一方、業績に基づく「しっかりした買い」(国内証券)もあるという。
新型コロナウイルスの影響で世界的に新車需要が減退する中、テスラは健闘している。同社の1―3月、4―6月の納車台数は市場の予想を上回った。4四半期連続で黒字となり、かつて赤字続きだった業績は安定しつつある。
コロナの感染拡大に伴う当局の命令で、テスラの米国工場も生産を一時停止。年内に最低50万台を納車する目標は「以前より達成が難しくなった」(イーロン・マスク最高経営責任者)ものの維持した。米国と中国に加え、ドイツにも工場が来年完成する予定があるなど、販売台数の上積みも見込まれる。
<ESG銘柄、新しいビジネスモデル>
EVに特化していることもテスラ株にはプラスだ。三菱UFJ国際投信チーフファンドマネジャーの石金淳氏は「機関投資家にとって、テスラはESG(環境・社会・企業統治)銘柄としてうってつけ」と話す。バッテリーや次世代技術への評価も高く、「車両を制御するECU(電子制御ユニット)の性能は抜きん出ていて欧州勢の5年は先行しているとされる」。
日産自動車<7201.T>以外の日本車メーカーはEVの拡販に慎重だが、テスラは欧米に加え、世界最大の自動車市場の中国で積極的にEVを販売し、人気を得ている。
「テスラのビジネスモデルは大手自動車メーカーとは根本的に違う。それが株価を大きく押し上げている」と指摘するのはSBI証券の遠藤功治企業調査部長だ。車両購入後に無線でソフトウエアをアップグレードして性能を高めて顧客に課金するほか、CO2(二酸化炭素)排出量ゼロのEV特化を活かし、単独では環境規制をクリアできず罰金を迫られる競合他社にクレジット(排出枠)を売って利益を得てもいる。
販売手法も評価されている。コロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)中は人々が外出できず、店舗販売中心の自動車メーカーは売上げを大きく落とした。一方のテスラは昨年からネット販売を本格化。「今までは考えられなかった『車をワンクリックで買う』という世界を実現しており、成長期待を後押ししている」(別の国内証券)という。
<成長ストーリー見えない日本車メーカー>
もっとも、日本車メーカーがテスラに倣えば市場からの評価・期待が高まるかというと、必ずしもそうではないようだ。EVの採算性はまだ低く、米中摩擦を踏まえると中国市場への深入りはリスクとの見方もある。販売店網の見直しもすぐには難しい。
調査会社TIWの高田悟シニアアナリストは「トヨタはバッテリーなどの技術を磨き、売れて儲かる電動車をつくらなければならない。日産はまず縮小均衡を図らないと評価されない。ホンダは四輪の収益改善を急ぐ必要がある」と語る。
トヨタは25年には全車種で電動車を展開、ホンダも30年をめどに世界販売の3分の2を電動車にする目標を掲げるなど、各社も電動車シフトを進めている。ただ、日興アセットマネジメントのチーフストラテジスト、神山直樹氏は「日本車メーカーにEV専業の成長ストーリーのような夢と希望がないのでPER(株価収益率)も相対的に低くなりやすい」と指摘する。
テスラの昨年の世界販売は<7211.T>36万7500台で、来年中に生産能力を年100万台に引き上げる方針。実現すれば、現在100万台規模のマツダ<7261.T>、SUBARU<7270.T>、三菱自動車<7211.T>と肩を並べる。
(白木真紀 取材協力:杉山健太郎 編集:平田紀之)
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