- 2021/06/22 掲載
コロナ後の金融・財政:FRB正常化で金利差拡大なら「日本にいい状況」=伊藤コロンビア大教授
[東京 22日 ロイター] - コロンビア大学教授の伊藤隆敏氏はロイターとのインタビューで、米連邦準備理事会(FRB)の政策正常化に伴い、世界的な長期金利の上昇が見込まれるが、日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)により日本の金利は抑制されるとの見通しを示した。金利差が拡大すれば円安や株高のサポートになり、日本に「いい状況」が生まれると指摘した。
インフレ目標政策に詳しい伊藤氏は、日銀の掲げる2%物価目標について、今後、物価がその水準に達してもすぐには利上げはしないだろうとの見通しを述べた。いまだ物価目標が達成されていないことは「残念だ」とする一方、必ずしもインフレ率だけが中央銀行の政策の評価対象ではなく、実体経済や金融システムの安定も考慮に入れる必要があるとし、日銀の政策はある程度成功したと評した。
FRBは、米経済がコロナに伴う景気後退から急速に回復しているため、金融緩和策の縮小を示唆し始めた。先週の連邦公開市場委員会(FOMC)後に発表した最新の金利・経済見通しでは、大半の当局者が2023年末までに少なくとも2回の利上げを見込んでいることが明らかになった。
伊藤氏は、FRBの金利政策における出口戦略に伴い、「長期金利が世界的に上がる可能性があるが、日本はイールドカーブ・コントロールがあるので(金利が)上がりにくい」と指摘。その場合、「金利差が開くので、円安圧力が生じる。そうなると株にも下支えになる」とし、「日本にとってはいい状況が生まれる」との見方を示した。
FRBが正常化するタイミングで日銀も出口を模索するかどうかについて同氏は、日銀は資産購入を減速しているため、テーパリングはすでに起きているが、物価が2%に上昇しても、利上げはしばらく先との認識だ。
「2%になってすぐ出口に向かうということではないと思う。2%を超えて1年ぐらいたたないと、テーパリングは別として、利上げにはならない」と述べた。
伊藤氏は、CPI(消費者物価指数)の伸び率が1%で、完全雇用が達成され、需給ギャップが解消もしくは人手不足になっている方が、物価が2%でマイナス成長の状況よりはずっと良いとの見解も述べた。
日銀が先週、気候変動リスクへの金融政策面での対応として新たな資金供給制度の導入を決めたことについて「グリーン融資に対して間接的に支援するのは、世界の潮流に乗っている」とし、日銀の決定は「適切だと思う」と述べた。
ただ、「何がグリーンなものなのか厳密に考えると線引きが難しい」とし、「問題はインプリメンテーション」(政策の実行)だと指摘した。
政府は、新型コロナウイルスの影響に対応するため大規模な財政出動を行っている。伊藤氏は、今後、財政再建を進める際には経済成長で税収を上げることを目指すのではないかとの見通しを示した。増税は経済に影響が出るため可能なだけ避けるだろうと述べ、コロナ後に、膨張した歳出を元に戻せるかが重要だとした。
<大学ファンド運用「GPIFより格段に難しい」、株比率は6-7割に>
政府は、世界レベルの研究基盤の構築に向け「大学ファンド」を創設し、本年度中にも運用を始める。まずは4.5兆円からスタートして、早期に10兆円規模への拡充を目指す。「資産運用ワーキンググループ(WG)」座長を務める伊藤氏は、ファンドの運用について「許容リスクを決めて、そのリスクの範囲内でリターンを最大化する」との方向性を示した。
運用資産の「3%プラスインフレ率というリターンを最低限確保した上で、できればそれを上回るリターンを確保するようなポートフォリオにするのが原則」と話す。WGでは、ポートフォリオの6-7割程度の比率を株に振り分けるイメージで議論が進んでいるとした。またオルタナティブ(代替)投資の可能性も挙げた。
毎年、運用資産の3%程度をキャッシュアウトし、かつ元本を減らさず、むしろ増やすことを目指しているため「結構大変」と指摘し、大学ファンドの運用の方が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産運用より「格段に難しい」と述べた。
また、大学ファンドは財政投融資から資金を借り入れているため、金利を払う必要があるほか、いずれ満期が来た時に資金を返還しなければならないかもしれないといった仕組みも運用の難しい点として挙げた。
*インタビューは6月21日に実施しました。
*バイラインを修正して再送します。
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