• 2021/09/21 掲載

NICT・産総研・名大、シリコン基板を用いた窒化物超伝導量子ビットの開発に成功

NICT・産総研・名大

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【ポイント】

■超伝導転移温度16Kの窒化ニオブを用いて、シリコン基板上に窒化物超伝導量子ビットを実現

■低損失なシリコン基板上への作製技術を開発し、コヒーレンス時間が大きく改善

■大規模量子コンピュータや量子ノードへの応用に期待

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長:徳田 英幸)は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(理事長:石村 和彦)、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学(総長:松尾 清一)と共同で、超伝導材料にアルミニウムを使用しない超伝導量子ビット(*1)として、シリコン基板上のエピタキシャル成長(*2)を用いた窒化物超伝導量子ビットの開発に世界で初めて成功しました。この量子ビットは、超伝導体として超伝導転移温度が16K(-257℃)の窒化ニオブ(NbN)(*3)を電極材料とし、ジョセフソン接合(*4)の絶縁層に窒化アルミニウム(AlN)を使用しエピタキシャル成長させた全窒化物の素子であり、ノイズ源である非晶質(*5)の酸化物を一切含まない新しい超伝導材料から成る新型量子ビットです。今回、この新材料量子ビットをシリコン基板上に実現することで、平均値としてのエネルギー緩和時間(T1)(*6)が16マイクロ秒と位相緩和時間(T2)(*6)が22マイクロ秒のコヒーレンス時間(*7)が得られました。これは、従来の酸化マグネシウム基板上の窒化物超伝導量子ビットの場合と比べてT1は約32倍、T2は約44倍に相当します。

 超伝導体として窒化ニオブを使うことで、より安定に動作する超伝導量子回路の構築が可能となり、量子演算の基本素子として、量子コンピュータや量子ノード(*8)の開発への貢献が期待されます。今後、回路構造や作製プロセスの最適化に取り組み、更なるコヒーレンス時間の延伸、大規模集積化の実現に向けて研究開発を進めていく予定です。

 なお、本成果は、2021年9月20日(月)に、世界的に権威のあるNature Research出版社の専門誌「Communications Materials」に掲載されました。

*1 超伝導量子ビット

 量子ビット(量子コンピュータで使われる量子情報の最小単位)の一種で、0と1の重ね合わせの状態を、超伝導体で構成される量子回路で実現する量子ビットが超伝導量子ビットである。

*2 エピタキシャル成長

 エピタキシャル成長(Epitaxial growth)は、薄膜結晶成長技術の一つで、基板上に結晶面をそろえて配列する成膜法である。NbNのエピタキシャル成長には、格子定数がほぼ等しいMgO単結晶の基板を使うのが一般的だが、MgO基板はマイクロ波転送の際に誘電損失が大きいため、量子ビット作製に使うのは望ましくない。参考としてMgOの格子定数は0.421 nm、NbNの場合は0.446 nmである。高抵抗のSi基板の場合は誘電損失が一桁小さく量子ビット作製に向いているが、その格子定数(0.542 nm)がNbNとは大きく違うため、Si基板上でのエピタキシャル成長には難点があった。しかし、NICTではSi基板とNbN薄膜の間にMgO基板と格子定数がほぼ同じであるTiN(格子定数0.424 nm)をバッファ層として使うことで、Si基板上でのNbNのエピタキシャル成長技術を開発し、量子ビットに応用できるようになった。

*3 窒化ニオブ(NbN)

 超伝導転移温度以下の温度において、電気抵抗がゼロとなる超伝導状態を発現する材料の一つ。ニオブ(Nb)と窒化ニオブ(NbN)の超伝導転移温度は、それぞれ約9 K(-264 ℃)と16 K(-257 ℃)である。超伝導転移温度が高い窒化ニオブの方が、冷却に必要な電力が小さくて済むという利点がある。

*4 ジョセフソン接合

 二つの超伝導電極を極薄の絶縁体あるいは常伝導金属薄膜で隔てた構造を持つ素子をジョセフソン素子と呼び、超伝導電極間のトンネル効果によって電気抵抗ゼロ(ゼロ電圧)の電流(ジョセフソン電流)が流れる。このジョセフソン電流の大きさは、両超伝導電極の巨視的位相の差によって決まるため(直流ジョセフソン効果)、逆に、ジョセフソン素子にどれだけ電流を流すかで超伝導電極間の巨視的位相を制御することができる。超伝導量子ビットをはじめとする多くの超伝導デバイスは、このジョセフソン素子による巨視的位相制御を基本動作原理としている。

*5 非晶質

 結晶質でないこと。固体の原子・分子などの配列に規則性が認められないもので、無定形物質、アモルファスとも呼ばれる。

*6 エネルギー緩和時間(T1)と位相緩和時間(T2)

 量子ビットのコヒーレンス時間には、エネルギー緩和時間(T1)と位相緩和時間(T2)と呼ばれる量子ビットのダイナミックスを特徴付ける2種類の時間が知られている。エネルギー緩和時間T1は、基底状態(|0>)にある量子ビットにπパルスと呼ばれるマイクロ波パルスを照射して得られる励起状態(|1>)が、エネルギーを放出して基底状態|0>に緩和する過程を表す時間である。量子ビットが励起状態|1>に見いだされる確率は、時間に対して指数関数的に減衰し、その時定数がT1である。T2は、位相緩和時間又は横緩和時間と呼ばれるもので、π/2パルスと呼ばれるマイクロ波パルスで|0>状態と|1>状態の重ね合わせ状態を作り、その位相が緩和して量子ビットが量子コヒーレンスを失うまでの時間のことである。

*7 コヒーレンス時間

 量子重ね合わせ状態の寿命のこと。量子的に重ね合わせられた二つの状態の間で干渉が続く時間のことであり、干渉が消えると量子重ね合わせ状態は失われ、粒子の状態は一つに確定する。 元の記事へ

*8 量子ノード

 量子情報の長距離通信は、光ファイバの光通信技術で可能になり、これにより、量子ネットワークを構築することができる。しかし、通信距離が長くなると光信号が弱くなり、量子雑音などにより通信速度に制限がかかることが課題である。その問題を解決するため、このネットワークの中継点(ノード)に光信号の量子的な性質を自由に計測・制御・保存できるようにするのが量子ノードである。量子ノードは、使用目的によって一つの量子ビットから多くの量子ビットで構成される量子プロセッサが必要である。

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