- 2021/10/12 掲載
アングル:「赤い州で生産、青い州で販売」 テスラ移転でねじれ加速
南部、西部は共和党支持者が優勢な「赤い州」が多く、全般に税負担が軽く、規制が緩い上に、労働組合の組織率が低い。しかし国内におけるEVの主要な販売市場は、沿岸部に多い、民主党支持者が支配的な「青い州」。それだけにテスラの本社移転はEV業界の雇用を巡る州間の競争を激化させ、政治的な色彩も帯びる。
カリフォルニアなど青い州には、EVの購入者や、EVメーカーの投資家が多く、こうした人々は強力な気候変動政策を支持している。
一方、赤い州の多くがEV業界の雇用を獲得している。これらの州の共和党知事は化石燃料業界を支持しつつ、補助金や規制緩和の導入によりEVメーカーとその雇用の受け入れに前向きだ。
テキサス州のアボット知事も7日、テスラの発表を受けて、ツイッターに「テキサスはチャンスと技術革新の州だ。ようこそ」と投稿した。
EV業界では新興や老舗のメーカーがテキサス、アリゾナ、オクラホマ、テネシー、ケンタッキーなど南部、西部州の新工場向けに投資した額は、計画ベースで既に計240億ドル(約2兆6800億円)に達している。
テスラは、サンフランシスコ湾岸地区の活気あるハイテク産業の拠点から採用した従業員を引き留めながら、同時にテキサスのビジネス環境を生かすという、難しい課題に直面する。カリフォルニアやニューヨークなど政治的にリベラルな州にテスラ車の顧客が多いことも考慮に入れる必要がある。
企業の立地選定を支援するボイド・カンパニーのジョン・ボイド氏は「テスラとしては、カリフォルニア州が危機に見舞われているタイミングで多額のインセンティブを求めているとか、同州を見捨てたりしているとの批判や攻撃を受けるのは避けたいところだ」と話す。
カリフォルニア州のニューサム知事(民主党)は8日、マスク氏が宇宙企業のスペースXなど同州への投資を行い、雇用を創出していると称賛する一方、カリフォルニア州はテスラ社に数億ドル規模の税制上の優遇措置を提供しているとも述べ、州の規制環境が起業とその後の成長を後押ししていると強調した。
<労組の組織化に壁>
フォード・モーターなど他の米自動車メーカーも同様の問題を抱えている。フォードは先に韓国のSKイノベーションと110億ドルを投じてテネシー州に大規模な工場を建設し、EVと電池を製造すると発表。この工場とケンタッキー州の関連事業で1万1000人の雇用が創出される見通し。
全米自動車労組(UAW)は即座にフォードに対して、これらの雇用について組合化の保証を求めた。しかしテネシー州とケンタッキー州では組合加入は任意となっており、これらの州の他の自動車メーカーの従業員はこれまでUAWによる組織化の取り組み活動を拒否してきた。
マスク氏は昨年の新型コロナウイルス流行で規制当局がテスラに数カ月間の生産停止を迫った際に、カリフォルニア州との対立が表面化。同氏がテスラ本社の州外移転などをちらつかせた経緯がある。
世界最大級の金持ちの1人であるマスク氏は、昨年テキサス州に引っ越し、西部劇風のバンダナやシャツを着てすっかり地元に溶け込んでいる。カリフォルニア州では所得に最高13.3%の税が掛かるが、テキサス州は個人に所得税を課していない。
一方、昨年はテスラの全世界での納入台数の約15%をカリフォルニアが占めた。
マスク氏は7日、本社を移転してもカリフォルニアから完全に撤退せず、フリーモントの組み立て工場とネバダ州の車載電池工場の生産量を50%増やすと説明した。関係者によると、技術者はシリコンバレーに残り、一部の財務担当者が勤務地を移りそうだという。
テキサス州の法律では、テスラが州内の顧客に直接自動車を販売することが禁じられており、この点は厄介な問題になりそうだ。
テキサス州の州都オースティンは、2010―20年で人口が30%増加して約230万人に達し、都市圏として国内で最も成長率が高い。テスラが工場を置くオースティンとその周辺地域は、テキサス州の他の大都市と同様に民主党勢力が強く、保守的で人口の少ない州内の他の大多数地域と一線を画す。
オースティン都市圏はハイテクの中心地で、デル・テクノロジーズなど大手が拠点を置く。
オースティンは一風変わったカルチャーで知られる。オースティン・シティ・リミッツやサウス・バイ・サウスウエストなど大規模な音楽フェスティバルの開催地でもあり、毎年多くの観客を集める。
ただ、急成長と、高額所得者であるカリフォルニア州民の流入は、一部の地元住民の反発を招いている。州外の買い手が提示価格の2倍の値段で、現金で住宅を購入したという報道もあり、いら立ちを抱える市民も多い。
(Tina Bellon記者、Hyunjoo Jin記者)
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