• 2022/02/15 掲載

焦点:暗雲漂う対中輸出、対外資産伸び鈍化も 忍び寄る「首位陥落」

ロイター

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[東京 15日 ロイター] - 対中輸出の先行きに暗雲が漂ってきた。有力な輸出先である対中貿易の失速は経常収支を下押しし、過去数十年にわたって積み上げてきた対外純資産の伸びを鈍化させかねない。世界トップを誇り、膨大な財政赤字を抱えながらも国際社会の信認を取り付けてきた純資産残高の首位陥落も視野に入りそうだ。

<輸出マイナスの現実味>

中国経済は、世界経済に先駆けてコロナ禍からの回復を遂げた。日本からの対中輸出額は2021年に17兆9845億円(確報)と前年に比べて19.2%増え、財務省の貿易統計によると、金額ベースで過去最大の輸出額となった。輸出全体に占める割合も約2割と小さくない。

しかし政府関係者の1人は、日本経済の先行きを巡って「最も懸念されるのが中国景気の減速だ」と、警戒感をあらわにする。

対中輸出は、物価変動の影響を除き、より実態に近いとされる「実質輸出」では、すでにマイナスの動きとなっている。日銀によると、21年の中国向け実質輸出は前年比10.2%のプラスだったものの、季節調整済み前期比では7―9月期(5.4%減)、10―12月期(1.8%減)と、名目値とは異なる動きをみせている。

背景には不動産部門の不振や、中国政府による新型コロナ対応がある。20年8月には中国恒大集団の経営危機が表面化し、金融・資本市場を揺さぶった。今月4日に開幕した北京五輪では選手や大会関係者を隔離し、外部と接触させない「バブル方式」などの厳重な対策がとられたが、1月23日以降に300人を超える大会関係者の感染が確認され、感染拡大を抑えきれるかは見通せない。

トヨタ自動車は、中国東部・天津市にある第一汽車集団(FAW)との合弁工場を1月10日から11日間閉鎖した。22日に操業再開にこぎつけたが、コロナ検査が義務づけられたことを受け、サプライヤーに影響が出た。厳しいロックダウン(都市封鎖)を敷いた都市もあり、「機械受注の外需をみると減速感がある。今後も日本の輸出に影響が出るのは避けられそうにない」と、前出の政府関係者は言う。

国際通貨基金(IMF)が先月公表した世界経済見通しによると、中国の実質国内総生産(GDP)は22年に前年比プラス4.8%(21年は同8.1%)にとどまる見込みだ。新型コロナが直撃した20年を除けば1990年以来の低成長となる。

専門家の間でも「ゼロ・コロナ政策の影響で工場停止や人の移動が制限され、年初からの中国経済は相当減速しそうだ。日本の輸出全体が1―3月期にマイナスとなり、外需がGDPの逆風となりかねない」(野村総研の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)との見方が出ている。

<円の信認揺さぶる懸念>

企業の海外現地生産が進み、日本の経常収支は対外貿易以上に外貨建て資産から得られる利子、配当収入が支える構図となっている。これらの所得収支を積み上げ、20年末時点で356兆円余りの対外純資産を保有し、30年連続で世界最大の純債権国となった。

もっともロシアによるウクライナ侵攻への警戒感の高まりなどで原油先物が7年ぶりの高値となる状況が続き、赤字基調の貿易収支は反転の兆しがみえない。貿易収支の赤字が想定以上に膨らみ、所得収支で補いきれない状況が続けば、経常収支の伸びにも影響がおよびかねない。

財務省の国際収支状況速報によると、21年12月の経常収支は3708億円の赤字となった。赤字は20年6月以来1年半ぶりで、比較可能な1996年以降の単月赤字11回のうち、14年6月(1934億円の赤字)を上回り、14年1月(1兆4561億円の赤字)以来の赤字幅だった。

「(海外現地生産の進展に伴う)貿易収支の構造変化の面からも、これまでのように経常黒字を積み上げることが難しくなってきた」と、みずほ銀行の唐鎌大輔チーフ・マーケットエコノミストは言う。

米格付け会社ムーディーズのクリスチャン・ド・グズマン氏は、対外純資産の残高水準そのものは「しばらくは大幅な黒字を維持するだろう」と指摘。仮に、純資産残高で日本が首位の座を失っても、A1格とする日本国債格付けに「影響するとは思わない」とみるが、市場には「経常収支が暦年ベースで赤字となり、対外純資産の積み上げができなければ円の信認が揺さぶられかねない」(みずほ銀の唐鎌氏)と、先行きを懸念する声がある。

対外純資産で世界2位のドイツの残高は約323兆円と、日本に迫っている。

(山口貴也、金子かおり グラフ作成:田中志保 編集:石田仁志)

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