• 2022/02/19 掲載

アングル:EVのスマート充電、電力網パンク回避の切り札に

ロイター

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[ロンドン/ユトレヒト(オランダ) 14日 ロイター] - 電気自動車(EV)の普及に伴って、各国の電力事業者や充電設備開発企業、政府を悩ませる大きな問題が存在する。数千万台のEVが走っても電力網がパンクせず、送配電設備の刷新に巨額を投じなくて済むようにするにはどうするべきか―─という課題だ。

その答えを握るのが、スマート充電システムと言える。

電力料金の高いピーク時にEVのコンセントをつないでも、実際には料金の安いオフピーク時まで充電しないようにできるソフトウエアを使用。これにより電力網への負荷は軽減され、再生可能エネルギーの利用は効率化し、EVの所有者は出費を節約できるようになる。

こうしたソフトが無い状態で何百万人のEVドライバーが仕事終わりに充電すれば、送電網は過負荷になって停電を起こしかねない。会計事務所EYの推計では、欧州のEV台数は2030年までに6500万台、2035年までに1億3000万台に達する見通しだ。

英国のEV充電施設企業、コネクテッド・カーブのクリス・ペートマンジョーンズ最高経営責任者(CEO)は「スマート充電が無ければEVへの移行はほぼ不可能だ」と語り、ロンドンで行っている公共充電設備の試験プロジェクトをロイターに見せてくれた。

同社のスマートフォン・アプリを使って充電スピードと充電時間をセットすれば、特定の「エコ」料金で充電することができる。

「ずっと安いし簡単だ」と語るのは、パブを経営するゲド・オサリバンさん(65)。コネクテッド・カーブのアプリを使うことで、所有するプラグイン型ハイブリッド車の充電料金を3割減らすことができたという。

公共の充電設備はまだ非常に少なく、こうした設備にスマート充電を導入することが大きな課題になる。

EYとユーレレクトリックの報告書によると、欧州の公共充電設備は現在、37万4000カ所にとどまっている。2035年までに900万カ所に増やす必要があるという。

近い将来に「双方向充電」、つまり「車から電力網へ」の逆充電も重要になるだろう。電力使用量がピークを迎える時間帯になると、数百万人のEV所有者がEV電池に蓄えられた電力を売って電力網に送り返すのだ。

英エネルギー規制当局OFGEMによると、多くの家庭でスマート充電が使えるようになっている英国でさえ、多くのEV所有者はその存在に気付いていない。米国でスマート充電を提供している公益企業は、ひと握りに過ぎない。

また、現在のところ、双方向充電に対応したEVは仏ルノーの車種と、韓国の現代自動車の次期モデルなど、ごく限られた種類しかない。ただ、今後は他のメーカーも追随する見通しだ。

ノルウェーは政府肝いりでEV移行の最先端に立っており、首都オスロでは自動車販売の約4分の3をEVが占めている。地元の変電所の一部は1950年代に建設され、もし、スマート充電が無ければ、オスロは高い経費を投じて電力網を大規模刷新する必要が生じる。

「われわれは電力網に過剰な投資をしたくないため、この状況を切り抜けるにはスマート充電という解決策が必要だ」と、オスロの充電インフラ構築を司るSture Portvik氏は話した。

<風力発電も効率化>

英コネクテッド・カーブは2030年までに19万カ所に公共充電設備を配置する目標を立てている。それらを通じて消費者の充電パターンを予想して電力事業者に知らせ、再生可能エネルギーが余っている時には低い料金を提示する、といったことが可能になるとペートマンジョーンズCEOは説明する。

現在は風力発電が過剰になると、事業者は風力タービンを止めるよう言われる」が、「スマート充電があれば、その電力をもっと活用できるようになる」という。

英国の電力会社の中には既に、家庭でのスマート充電用にオフピーク料金を提供しているところもあるが、活用しているEV所有者はほとんどいない。

安いEV充電料金を探すサービスを提供している英ライトチャージのチャーリー・クックCEOは「家庭でのスマート充電環境は既に整っている」が、「実態として、そうした(お得な)料金設定の認知度は驚くほど低い」と話した。

ライトチャージは、スマート充電によって英国のEVドライバーは2030年までに100億ポンド(135億ドル)節約できるようになると試算している。

<双方向充電が鍵>

双方向充電が、今後の鍵を握るかもしれない。

EYのグローバル・エネルギー資源責任者、サージ・コール氏は「恐ろしく高くつく」電力網の刷新よりは、スマート充電と双方向充電の方が賢明な選択肢だと指摘する。

英OFGEMは、スマート・双方向充電によるピーク時の電力使用量削減効果が2050年までに、イングランドで建設されている「ヒンクリーポイントC原子力発電所」の発電量の10倍に達すると予想している。

米国では、スクールバスを使ってEVから電力網に電力を供給する試験プロジェクトが10カ所以上で進行中だ。オーストラリアにも双方向充電設備を開発中の企業がある。

双方向充電の導入を見据える自動車メーカーも増えてきた。米フォード・モーターは太陽光発電企業サンランと提携し、ピックアップトラック「F─150ライトニング」を使って家庭に電力を供給している。

ただ、双方向充電の将来性を信じて追加投資を行ったノルウェーのオスロは、対応車種を導入する自動車メーカーがまだ少ないことに失望している。

Portvik氏は「双方向充電の壁になっているのは、自動車メーカーだ。大手メーカーが取り組みを強化する必要がある」と語った。

(Nick Carey記者 Anthony Deutsch記者)

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